リッキー

万引き家族のリッキーのネタバレレビュー・内容・結末

万引き家族(2018年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

1003本目。190419
『幸せの定義とは?』
本作で描かれる「家族」は、祖母、父、母、姉、弟、妹の6人で構成されていますが、誰一人血縁関係はありません。みんなで食事を囲み、自宅の縁側で花火大会を楽しみ、日帰り旅行で海水裕に行くこの家族は、傍から見るといつも笑いが絶えない「普通の」家族と何ら変わりはありません。しかし彼らの関係性は、我々の常識から大きく逸脱していたのです。

彼らには誰一人として将来への展望や計画などなく、その日暮らしに近い状態です。一人ぼっちの孤独な(偽)祖母、逃亡犯の(偽)父母、家出してきた(偽)姉は、たまたま自分たちの利害が合致したから肩寄せ合って生きているだけのように見えます。そもそも家族としての絆は存在していないのです。
だから、「祖母の死」や「馴染みの商店の店主に言われた一言」がきっかけとなり、それまで均衡を保っていた家族のバランスが崩れ、あっという間に崩壊していきました。

死体遺棄で逮捕された母が留置所での面会シーンで「いままで十分楽しませてもらったから」と語っていましたが、 彼らの本質はこの言葉に尽きます。
彼らは一時的な感情に任せて後先を考えないまま、衝動的に子供たちを連れ帰りますが、自分たちの都合で、「バカなやつが学校に行くんだ」と「弟」に学校で学ぶことを放棄させ、「店にある物は誰のものでもない」と嘘の理屈で洗脳し、万引きの相棒に仕立てていました。幼い「妹」にもいずれは同様なことをさせるつもりだったでしょう。子供たちの実の親も最低ですが、この人たちも似たり寄ったりです。

祖母が死に、葬式もできないため、彼らは躊躇なく自宅の地下に死体を埋めます。そこには祖母への感謝の念などは一切感じられず、不要物を処分しているようにしか見えません。
さらに祖母がこっそりと貯めていたへそくりや年金の不正受給を(偽)親たちは何の躊躇もなく着服します。
これらの行為を目撃した子供たちは、暖かい「家族の絆」を信じていたのに、裏切られたようにしか感じなかったように思えます。祖母を含めた大人たちの、「今を楽しく暮らせばそれでよい」という意識と、子供たちが純粋に家族を求める意識とに大きな差異があったことがわかります。

今後、この人物たちはどうなるのでしょうか。今回の件で小悪党たちの意識は変わることはないと思われますが、「家族」という存在ときっぱり訣別できた男の子だけには、本当の幸せをつかみとれる希望がもてました。

いろいろ書きましたが、演技に定評のある俳優をキャスティングして、家族それぞれのキャラクターを際立たせたところは白眉です。 2時間ほどの尺で6人分の人物像を描き切った見事な作品だと心より感心しました。
リッキー

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