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万引き家族のryosukeのレビュー・感想・評価

万引き家族(2018年製作の映画)
3.8
特に物語の前半部における、半径数メートルの日常生活の切り取り方が繊細で素敵。時折挟み込まれる叙情的なロングショットも実に良い。
何より本作は主要人物を演じる役者が全員良いのが凄いな。他の是枝作品でも同様だが、子役の演技に全くわざとらしさが感じられないのは演出の妙なのだろうか。
リリー・フランキーと樹木希林の自然体の魅力は流石。セリフの聞き取りやすさよりもナチュラルさの方がよっぽど大事だということを示してくれている。
安藤サクラの演技をちゃんと見たのは初めてだったが、「絆」という言葉を口にする際に照れてわざとおどける様や、「そうめん」のシーン等における生々しくリアリティのある姿が印象に残る好演だった。
ゆりの乳歯が抜ける若い生命力の象徴のような瞬間と樹木希林の最期が重なる対比的な語りが上手い。乳歯がぽろっと取れるような呆気なさで最期を演出する描写は、死を安易に用いてエモーショナルにしようとはせず抑制が効いている。
「そして父になる」でも直接的に引用されていた「パリ、テキサス」の平行線上を父子が歩く描写は、テーマに重なりのある本作でもきっちりオマージュを捧げられている。川沿いでの使い方は割とストレートだが、スーパーマーケットで万引きをする描写として引用できるのは面白いな。
毒々しい照明に彩られたマジックミラー式の風俗店のシーンも「パリ、テキサス」の同様のシーンが意識されているのは間違いないだろう。ナスターシャ・キンスキーの神々しい美しさとは別ベクトルの、松岡茉優の素朴な魅力が光っている。
畳の部屋におけるローポジションを織り交ぜた撮影はホームドラマの大先輩である小津を想起させる。父子揃っての釣りのシーンは「父ありき」であろう。所々に先人の名作への目配せが感じられる。
オマージュ元の作品と同様、本作でも父と子は平行線上で見つめ合いながら距離を詰め、釣り竿の動きを同期させるように心を通わせていくのだが、やはりそれらの作品と同様に父と子の間の物理的な距離は大きく開いていくことになってしまう。本作と引用元の作品においての主要な違いは勿論、父と子の間に血縁が無いということであるが、その事実によって彼らの関係を引き裂こうとするのは社会であり制度であると同時に自らでもあるということが示されることで、社会対個人の単純な図式化が避けられ、「血縁」というフィクションの力の強大さが描かれている。
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