ヨッシー

劇場版 幼女戦記のヨッシーのレビュー・感想・評価

劇場版 幼女戦記(2019年製作の映画)
4.0
『諸君、戦争の時間だ。』

小説投稿サイト『Arcadia』で連載されていたネット小説を原作としたテレビアニメ『幼女戦記』の劇場版。

帝国軍魔導師として戦争に明け暮れるターニャの前に最強の敵が立ちはだかる。

監督はテレビシリーズから引き続き上村泰。

近年、ネットの小説投稿サイトから書籍化されたライトノベルが増えていて、その小説投稿サイトの大手である『小説家になろう』から取られて“なろう産”ラノベと呼ばれている。
そのなろう産の中でも特に人気(というかこれしかないぐらい)なジャンルが“異世界転生もの“。
すごく雑に説明すれば、RPGゲームのような異世界に主人公がなんらかの方法(転生、召喚、理由すら特に無いものも)で行き、そこで最強クラスの力を(本人の努力なく)手に入れ、その力で無双して、助けた女の子に(簡単に)モテモテになりハーレムを作るというものが大半を占めていて、そのあまりにも陳腐でテンプレ化してしまった内容から、今ではなろう産というだけで悪いイメージがつくほど。実際はテンプレでもいい作品はあるんだけどね。

そんな中、逆にそのテンプレを利用した作品というのもいくつか登場していて、最近人気なのは今年劇場版が公開予定の『この素晴らしい世界に祝福を!』や現在アニメが放送中の『盾の勇者の成り上がり』などがあり、これらの作品は前述したなろう産テンプレに対するカウンター的な作品となっている。今回の『幼女戦記』もそういった作品の一つ。

この『幼女戦記』という作品の魅力はなんといっても主人公ターニャのキャラクター。
彼女は異世界転生者であり、初期に段階からチートレベルの能力を持つというまさになろう主人公らしいキャラクターなんだけど、どちらかというと悪役的なキャラで、常に物事を合理的に考えるリアリストであり、自身の保身のことだけを考える人物である。
戦う理由も安全な後方勤務がしたからなんだけど、その能力の高さが裏目に出て常に最前線に送り込まれてしまうギャク的な流れになっているのも面白いところ。
一方で、今回の劇場版の冒頭でも暗示されている帝国の敗北の運命やターニャを転生させ過酷か状況に送り込んだ“存在X”に対する反逆の物語でもある。

こういった感じでなろう産異世界転生らしい部分もあるが、なろう産主人公としては異色のキャラクターなのが面白いし、単に戦記物として面白い作品でもある。

前置きが長くなったけど、今回の劇場版はテレビアニメの完全な続きで、一見さんに向けたような世界観や設定の説明はほぼない。ほぼほぼアニメファン向けに作られているので、初見さんには厳しい(ある程度作品の雰囲気はつかめるとは思うが)。
その分アニメ版が好きなら間違いなく楽しめる作品。

テレビシリーズも良かった戦闘シーンが劇場版らしくパワーアップしていて、どの戦闘シーンも見所。冒頭から派手な戦闘シーンを入れて掴みにするところも上手い構成になっている。

また、今回は敵役のキャラクターが良い。
基本的になろう産作品は作者自身の投影である主人公を活躍させることに特化させた作品ばかりで、敵役というのは主人公にやられる為だけに存在するものばかり。『幼女戦記』もその点は同じだったんだけど、今回の劇場版はこの敵役であるメアリー・スーのキャラがしっかり作られているし、ターニャとの対比が良くできている。

このメアリというキャラは合理主義者で転生前から豊富な経験を持つターニャとは真逆で、非常に感情的で経験不足の新兵、そしてターニャと帝国に強い復讐心を持つ。
そんなメアリとターニャの決戦はまさに『感情』と『知性』の激突!これはアガるでしょ!この2人にクライマックスの戦いは戦闘シーンの作画も素晴らしく、これだけでも映画にした価値がある。

もちろん、『幼女戦記』らしいお約束もしっかりやってくれていて、オチはやっぱりあの流れだし(笑)、ターニャの部隊の戦闘中のしょうもないやりとりも相変わらず楽しい。ターニャ以外のキャラ一人一人は決してキャラは立ってないんだけど、こういったキャラ同士のやりとりでよく見せているところも上手い。
ターニャの敵に対する容赦の無い悪党っぷりも堪能できる。

少しだけ不満を上げると、ラストは「どうしてこうなった⁉️」じゃなくて、その後に「存在X、お前を必ず...」みたいな締め方をして欲しかった。今回は存在Xが一切出てこないのは少し残念かな。

とは言え、なろう産アニメの劇場版の中ではベスト級に面白い作品だった。この調子でテレビアニメの2期も是非やって欲しい。
ヨッシー

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