ゆめちん

彼が愛したケーキ職人のゆめちんのレビュー・感想・評価

彼が愛したケーキ職人(2017年製作の映画)
4.5
彼が愛したケーキ職人

切なくも優しい温もりを感じさせるそんな作品でした。鑑賞できてよかったです。

恋人を不慮の事故で失ったドイツ人のケーキ職人トーマスと、夫を亡くしたイスラエル人のカフェの店主アナト、偶然にも"同じ男性のオーレン"を愛した2人。トーマスが絶望と喪失感を抱える中、恋人の妻アナトの経営するカフェを訪れます。

ゆっくりと流れていく映像に少しの台詞が心地よく、表情や仕草から心情を読み取っていく魅せ方が想像を掻き立て、映像の中であれこれ決めつけずに、観客に判断を委ねるのがこの作品の魅力でしょう。

無表情であまり感情を出さないトーマス、哀愁漂う様々な表情を浮かべるアナト、対照的な二人の表情が深く心に残ります。
特にアナトを演じたサラ・アドラーの表情がとても印象的。"運命は踊る"でも感じたように、すべて異なるように映る繊細な表情には釘付けになります。

クッキーを作ってオーレンを思い出すトーマス、それを食べてオーレンを思い出すアナト、口いっぱいに広がるシナモンの香りが二人の心の痛みをゆっくりと紐解いていくような優しいシーンでした。

なかなか常識では考えられない3人の関係、それをここまで美しくも切なく感じさせるのが本作品の素晴らしいところ。
さらにクッキーやケーキなどのスイーツを織り交ぜることで、受け入れやすさも加わるように上手く描かれていると思います。

最後のシーンも委ねられますが、カフェを訪ねたトーマスと同じ気持ちではなかったのでしょうか。