父母がおらず、幼い頃から祖母に育てられたトーマス。祖母も亡くし、ひとりぼっちの彼の恋人は家庭持ちの男性。
その恋人をも事故で失ってしまった彼の孤独感、寂しさは想像するに余りある。ほとんど動かない表情やことばの少なさがそれを物語る。
恋人の家族に接触したこと。
もちろん、亡くしてしまった恋人のことを偲ぶ気持ち、もっと知りたい気持ちがあったのだろう。けれどもう一つの動機は、彼氏が大切にしていた「家族」「家庭」とはどんなものか知りたかったのかもしれない。それらを知らずに育った彼だから。
結果的にその「家庭」に居心地の良さを覚え、そこにおさまろうとしたトーマス。虫の良い話にも見えるけど、そのバックボーンを思うと責める気にはなれない。
一方、夫を亡くしたアナト。心の穴を埋めるべく奮闘する姿、時折見せる弱さがなんともやるせない。
ふたりともに、抑え気味ながら素晴らしい演技を見せる。無表情なトーマスが時折見せる笑顔、涙。アナトの憂いを帯びた表情。とても自然で、だからこそ胸に迫る。
ラストも余韻が残るもので良かった。