ねむ

彼が愛したケーキ職人のねむのレビュー・感想・評価

彼が愛したケーキ職人(2017年製作の映画)
4.1
何故か途中から涙が出てしまって、その理由が掴めず困っている。
『悲しみが 甘い涙に変わるまで』って言葉は正直しっくりこない。
これは誰の気持ちのつもりなのかな。
その言葉に引っ張られて良い意味で裏切られるという意味では正解なのか。
(もっとトーマスの魅力を表現して欲しかった気もする

なんて繊細な、なんて丁寧な…!
こういう静かな映画、私に色んなことを考える余地を与えてくれて本当に好き。
そしてその雰囲気を象徴するようなピアノの旋律もとても好みだった。

全編通してはっきりさせることのできない複雑な感情がこれでもかと胸に押しつけられる。
宗教、国、歴史それぞれの価値観が一瞬視界を遮る羽虫に思えて煩わしかった。
けど思わず目を凝らしてその奥を見つめてしまう。どうして同じ人に惹かれたのか。

恋って相手のうぶな深淵を垣間見てしまった時落ちる。
大切にしまい込んでいる誰かの記憶とか傷とかそういうものが佇まいに滲んでしまう。
自分や相手の人生がずーっと交わり続けることの希少さを思った。
そんなこと、よくよく考えたら途方も無いくらい稀だ。
自分を偽らないよう生きても生きられなくても死は突然やってくるわけで。
また誰かを好きになってもいいし、思い続けてもいいし。

1人で生きていこうとしている人を見ると抱きしめたくなるやんか!ばか!

瞬間的に『ある天文学者の恋文』を思い出したけど全然こっちの方が好き。

『足るを知る心』という言葉、余韻と共に噛み締めてる。


追記
こういう映画観ると愛とかセックスの役割の複雑さを思う。
この1つの言葉で一体どれほどの行為や意味合いを内包しているのかと改めて思う。
ねむ

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