おとりさん

彼が愛したケーキ職人のおとりさんのネタバレレビュー・内容・結末

彼が愛したケーキ職人(2017年製作の映画)
4.6

このレビューはネタバレを含みます

あぁ~、来た、来ちゃった、これはしばらくダメージくらうタイプの作品だ!

ドイツでカフェを営むケーキ職人・トーマスの元に現れた、一人のビジネスマン・オーレン。トーマスのすすめた【黒い森のケーキ】を味わいながら、至福の笑みを浮かべる。彼から息子の誕生祝いのプレゼントの相談をうけたりしているうちに、2人は恋人同士に…。
(物語後半で、このあたりの補完はあります。ご都合主義ではないよ。)

単身赴任のオーレンは、突然、イスラエルに帰国することに。次に来独すると言っていた時期を過ぎても戻ってこない。携帯電話に連絡したけれど応答なし。思い余ったトーマスはオーレンの勤務先をたずね、彼の急死を知る。

圧倒的な喪失感のせいか?かねて聞いていたイスラエルのオーレンの家族の元をたずねるトーマス。もちろん、自分とオーレンの関係は隠して。でも、ひょんなことから彼の妻が経営するカフェで働くことになる。
やがて、彼女と特別な繋がりを持つことに。

彼、が、愛したケーキ職人、というタイトルどおり、本作の主役は、トーマス。そして、タイトルの言葉を発する立場である、オーレンの妻・アナト。

突然喪われた愛しい人の名残を、お互いの中に求めた末の行為だと思っていたけれど、その後にアナトが愛人=トーマスだと気づいたシーンがあったので、そこは意外でした。
アナトはトーマスを、本当に愛してしまったのか?
その答えは、ラストで観客に委ねられます。

アナトの心情を推し量る一方、孤独な境遇に戻ったトーマスが不憫でならない(涙)。
演じるティム・カルコフさんの、ちょっとぽてっとした体型と綺麗なもち肌、また劇中語られるトーマスの境遇とあいまって、彼が幼く儚く見えてくる。
彼にとってのオーレンは、祖母なき後の唯一の家族、恋人でもあり、父親のようにも慕っていたのでは?
そんなトーマスの気持ちにひかれて、オーレンもドイツへの移住を考えてたっていう、真実を知るのが尚更痛いです。

結局、誰も幸せにならないバッドエンディングだけれど、この作品を貫くトーン、清らかで手堅い、手仕事のような確かさは好き。

舞台もキャラも違うけど「ブロークバック・マウンテン」を思い出す。

それにしても、ダメージ、半端ないな。
しばらく、後ひきそうです。