チッコーネ

北朝鮮をロックした日 ライバッハ・デイのチッコーネのレビュー・感想・評価

3.5
日本で言えば『フールズメイト』の時代から、一度の解散も経ず活動しているライバッハ。
ノイズ/インダストリアル系には、時々恐ろしく息の長いバンドがいるが、とかくキワモノっぽいイメージで、誰がフロントマンなのかも判然としない彼らがここまで続いているとは…!改めて驚き。

そして本作への興味は「なぜあのライバッハが、北朝鮮に招かれたの!?」という点に尽きた。「悪い冗談としか思えないミスマッチの背景に、北朝鮮の恐るべき情報収集能力と、ぶっ飛んだセンスが隠されているのか…」、と邪推したが、現地スタッフの対応と聴衆の反応には「やっぱり違ったか」という落胆を禁じ得ない(とは言え「ちょっと意味が分からなかった」を常套句とし、極保守的なエンタメしか受容できない多くの日本人にとっても、彼らの表現は理解不能だろうが)。
「では、何故…」という疑問については、本編を観ることで、仕掛け人の存在もわかる仕組みとなっている。

残念なのは、肝心のライブの模様が一曲しか収録されていなかったこと。リハにおける現地の少女歌唱団とライバッハのコラボが素晴らしかっただけに、喰い足りなさが残るのは当然かと思う。
また「北朝鮮のヒット曲カヴァーは禁止!」というお達しを食らった場面が収録されていたのだが、実際にはライバッハの女性メンバーが、チョゴマゴリを着てステージに立った様子も、チラッとインサートされていたので、もろもろの経過は非常に気になった。
恐らく本作の編集にも、北朝鮮の検閲がビシバシと入ったのに違いない。

その甲斐あってか、全体的には「異文化交流」程度で、さほど破綻のない音楽ドキュメンタリーという仕上がり。
しかし、西洋人の視点から見た北朝鮮の風景がたっぷりと収められているという点では、貴重な記録である。
またバンドリーダーの、大問題に発展しかねないパンクな行動に、アーティストとしての意地も感じられた。