JIZE

インサイドのJIZEのレビュー・感想・評価

インサイド(2016年製作の映画)
3.7
12月24日を舞台に不運な交通事故の影響で夫と聴覚を失った妊婦の女性が補聴器を頼りに音のない世界で正体不明の女に追い立てられるスペイン産ホラー映画‼本作は基の原盤となるフランス産スプラッタ「屋敷女」を踏襲している。冒頭で乳児誘拐の字幕テロップが提示され本作は出産直前のシングルマザーや世間に対する警鐘を呼び掛けた作品だと認識できた。原題の「Inside」は要約で"家の中"。系譜はほぼ住宅街のワンシチュエーションでゴーストタウン化した街並みの不気味な雰囲気は俺好みだった。おもに"ハンデを背負った女性が身に覚えのない恐怖に詰め寄られていく"プロットだ。簡潔に云えば主題の肝である"ターゲットにされた理由"が明かされる迄は得体の知れない絶望感が有無を言わさずガンガン込み上げてきて作品の勝因に思えました。例えば「パニックルーム」や「ドント・ブリーズ」など密室系のジャンル要素が多分に盛り込まれてる。特に前者で主人公サラがバスルームの窓際から対面の建物に住む男性に向け窓と窓とで必死にジェスチャーでSOS信号を送る場面はまんま上述させた作品に触発されたような描写である。また後者においては何度か気絶させても執拗に執拗に真顔で追いかけ回すタフな精神力や地形を完璧に熟知している強烈なサイコパス性に類する共通点があった。

→総評(クリスマスイブに起きた母性VS母性)。
小品ながらほぼ最後まで襲われる者が襲う側の意図を理解できないという見方では面白かった。開幕で生命の死別が描かれ終幕で...という含みもメッセージ性が込められている。後半で家の中からある別の場所にフィールドが移ろっていくくだりも作品に奥行きを付加させ本作の美点に思えた。つまりある終盤,主人公が苦肉の策で偶然立ち寄った先が...という不幸における不幸の絶望的なループ感であろう。熱湯を顔面にぶっかけられたり顔面を強打させても敵の身体能力にほぼ衰えを感じさせない点などある意味で「ドント・ブリーズ」の執拗さを凌いだ印象である。終盤の敵が車内で頭蓋骨陥没ほどのダメージを負い何分か後かに直ぐ様復活する治癒能力を感じさせるほどの敵のエネルギーゲージは過去最高ではないだろうか。。また不審に感じた訪問者が主人公の家に立ち寄るがサイコパス女に次々ぶっ殺されていくゴア描写の爽快感もエモーショナルであり本作の見所に感じた。特にベテラン刑事(中年男)と新人警官(若手女)のくだりは控え目に云って絵に書いたようなアナログタイプで描かれており劇場で観ていてホラー映画なのに思わず吹き出しかけた。作品の不満を呈せば謎の女のビジュアルがやや小綺麗(あるいは美女)で恐怖演出の仕方がかなり薄かった点や前半から後半で女のスペックが無条件で増幅していく点である。ただ音を逆手に利用した機転のフェイクや水中での攻防も罠を仕掛けたり工夫されてて地形の絵変わりも良かった。全部の真実が白昼夢の下へ曝された瞬間にやっぱりか...という印象はあるがスプラッタだけじゃなく前半は特にジャケ写にもある暗闇の家内限定で一進一退が工夫を凝らされて執拗に繰り広げられる小品ながら最後まで奮闘した良品でした。
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