柏エシディシ

ラジオ・コバニの柏エシディシのレビュー・感想・評価

ラジオ・コバニ(2016年製作の映画)
4.0
「戦争に勝者はいない。武器を作る代わりに楽器を作り、子供たちに音楽を作らせるべきです。」ラベー・ドスキー監督

ISとの抵抗運動により瓦礫と化したシリア北部の街コバニで、街を再建する人々の希望の光となるラジオ番組を放送する女子大学生ディロバンと復興への歩みを追い掛けたドキュメンタリー。

冒頭から凄惨でリアルな銃撃戦と、停戦後老人と子供たちが見守る中打ち捨てられた死体を回収する映像からはじまり、
この現実をまざまざと見せつけられるからこそ、少しずつ街が復興していく姿に心揺さぶられる。
床屋で散髪している元兵士が戦争の体験を痛々しくも語り、文字通り「真っ白い」街が彩りを取り戻していく。
ラジオから音楽が流れはじめる。
しかし、散発的な停電や軍事衝突は続き、「平和」への道のりもまたほど遠い事を思い知らされる。

ラジオゲストに呼んだジャーナリストに「あなたにとって戦争とは?」と逆に問われ返答に詰まるディロバン。
「親友が斬首されるのを見て、私の心は死んだ」

コバニの無抵抗な人々を殺戮したISの兵士が囚われ、「家族の元に帰りたい。生きる為に兵士になった」と語る絶望感。

それでも、ささやかな日々の営みの喜びや未来に希望を見出していくディロバンの姿に観客のこちらが逆に励まされてしまう。

危険をおかしてコバニの街に入り撮影した監督の勇気と胆力、コバニの人々の生活の機微を丁寧に捉えた繊細な視点が素晴らしい。
(ディロバンが若い男と仲良くする姿に複雑な表情をするお母さんを捉えた監督!wグッジョブ)
監督は未だなお国際社会から孤立を余儀なくされるコバニの街に映画館を建てるべく奔走中とのこと。応援したい。
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