茜

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッドの茜のレビュー・感想・評価

5.0
これだけはどうしても映画館で観たくて、でも近場でやってなくて、遥々電車に揺られて観に行ってきました。

2019年の今、まさかこんなにも身近に60年代のハリウッドの香りを楽しめるとは。
登場人物達が映画内で映画を観ているシーンも多かったためか、まるで自分も彼らと同じように劇場で当時の映画を観ているような錯覚に陥った。
本当は綺麗なシネコンじゃなくて、古くて汚い小さな映画館でこの映画を楽しめたら、きっともっと最高だった。
タランティーノはこの映画でお客が煙草休憩を入れる事も想定していると言ってたらしいけど、シネコンじゃ煙草吸うとこないんだもん。

この時代をリアルタイムで体感している人達は、60年代は映画業界に変化が起きたんだと言っている。
そして2019年の今もストリーミングをはじめとして、映画業界にまた新しい変化が起きているような気もする。
そんな現代に60年代のハリウッドを題材とした映画を撮るという事は、何か節目のような気持ちもあるのだろうかと、ぼんやりと思ったりもした。

普段は120分超える映画を観ると集中力が切れて脳が死ぬ私だけど、本作の159分は本当に早かったなぁ。
タランティーノらしいダラダラ会話劇も勿論てんこ盛りなんだけど、劇場で観た興奮も相まってか退屈した時間は皆無。
寧ろずっとこの60年代のハリウッドに浸っていたいとすら思える、凄く魅力的な物語と人々と街並みだった。

そしてあのラストを観て、あぁやっぱりタランティーノは「正義の映画」を撮る人だなぁと思った。
彼の映画では悪人がかっこよく描かれるような顛末は決してないし、豪快過ぎるほど大胆に無惨な歴史すらも変えてしまう。
もしシャロンがこの映画のラストを観たら、きっと楽しそうに愉快に笑うんじゃないかと思えて仕方がない。

あと、雑誌やSNS等で口を揃えたように「この映画を観るにあたって事前にこの事件について知識を入れておくべき」という言葉を見かけるけど、正直私はそう思わない。
自分がガチガチに構えて映画を観るのが好きではないというのもあるけど、そもそも私はタランティーノの映画は知識がないと楽しめないようなものだと思っていない。
勿論、知識があった方がより楽しめるし理解出来るというのも分かる。
でも単純に「あのシーンがかっこよかった、面白かった」「あの曲が素敵だった」とか、そんな気軽な感覚で観たっていいし、物語の背景に興味が沸いたなら掘り下げてみればいいし、その上でまた何度でも違う視点で楽しんで観ればいい。映画ってそんなもんだと思う。
正直なところ、この事件について既に知っていた私は、出来るなら何も知らずにこの映画を観てみたかったという気持ちもあります。
シャロンに起きた不幸を知らないまま、この映画の中でただ日常を生きるシャロンの笑顔を、まっさらな頭で純粋に観てみたかった。

あと余談だけど、私の好きな筋肉少女帯に「サンフランシスコ10イヤーズアフター」という曲があって、私は今日この映画を観て初めてこの歌詞の内容をきちんと理解出来たような気がしました。
好きなものと好きなものが、思わぬところで線と線で繋がることもあったりして、こういう巡り合わせが凄く面白いから映画も音楽もやめられない。
茜