こんなにも最高で心地良い160分の映画体験は初めてです。他の映画とはまた違った形で映画にのめり込むことができます。もはや擬似体験です。
クエンティン・タランティーノ監督の代表作であり、細部まで作り込まれた脚本により数多の脚本賞を受賞し、パルムドールまで獲った『パルプ・フィクション』からは一転。この映画は筋の通ったストーリが全くありません。ただただ監督の頭の中にある1969年を文字通り映しているだけ。映画という最高の芸術媒体を160分たっぷり使い、観客をハリウッドに連れて行ってくれるのです。
この作品は映像作品として本当に最高です。カーステレオから流れる音楽、窓の外を流れる景色。映画館があっという間に当時のハリウッドに変貌します。
醍醐味はなんといってもシャロンテートでしょう。特にマーゴット・ロビー演じるシャロンテートがシャロンテート本人が出演している映画を、本当に幸せそうに見ているシーンは最高でした。幸せが伝染してしまいます。ネタバレになるので言えませんが、ラストシーンもとても良かったです。監督の映画に対する「愛」を本当に感じます。
ハリウッドの消えかけの光であるリックと、ハリウッドの影であるクリフ、そして本当の光であるシャロンテート。3人の交差する生き様を見ているだけの160分。そして演じているのがレオナルド・ディカプリオ、ブラッド・ピッド、マーゴット・ロビーなのです。もうこれは映画の暴力です。
この作品に深読みは必要ないような気がします。監督は撮りたい世界を撮り、その映像を観客が見て感じる。こんなに幸せな映画は他にありません。