八木

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッドの八木のレビュー・感想・評価

4.0
 結局どういう話だったのか、てのが長々と見てよくわからなかった。よって、どういう評価をすりゃいいのかもよくわからんのでした。はい。でも一日くらい置いて段々感想が固まったきました。
 リック・ダルトンの俳優としての隆盛を描いたドラマ、というなら問題を立ててお話の山場をつくることに意識的でなかったと思うし、リックとクリフの友情の話だったら、「ずっとすんげえ仲良いだけ」ってどういうことなのよ。別離はあるけどずっと仲良いまんまです。シャロン・テートが最終的にアレになる話として見たら、単純に割く時間が少なすぎるし、シャロンの旦那であるロマン・ポランスキーを含めて、これら登場人物がゴチャゴチャとなっていく話だとしたら、視線が通い合う瞬間が少なすぎる。そして、言い訳のように最後の最後、超絶楽しいクライマックスがあって、やはり締まりのないエンディングになって、僕は「つまりどういう映画なのよ」とエンドロール見ながらしばらく考えていた。
 タランティーノという人は、相当な映画オタクであって、血肉となった映画からの影響を映画を通じて表現し、映画についての愛をむき出しにする、というイメージをイングロリアス・バスターズを見て思いました。そんで、その他監督の映画についても、オマージュやらリスペクトであふれかえっていると聞きます(あんま見てないので知らないが)。そんなタランティーノが、「映画について考えていたある時代の人たち」を平等な視点と溢れる愛で描いたというのは、映画による表現の力を信じるというタランティーノ作家性をかなり直接的に描いた、異色といえるような作品であるような気がしてきたんですけどいかがでしょうか。
 ヒップホップの人らが曲の中で「この最高な音楽で楽しんでくれ」と言葉で言ってしまうような感じ。書道家が「かっこいい字」と書き初めでかっこよく書くような感じ。合ってるかどうかは知らん!

 この映画に限ったもんではないんですけど、この映画でも出てくる人物は大体人間味に溢れております。とにかくヘラヘラしてるクリフが格好良くて最高でしたけど、「俺はもっと演技できるのにバカ!もう!」ってじたばたするリックもいいし、「私この映画出てんすよ~エヘヘ~」っておのぼりさんで映画館行って、実際出てるところを見ながらずっとニコニコしているシャロンも最高にキュートだし、ブルース・リーも現場で異物感を出しながら「特別変でもなく、というか魅力的であった」ということを見せていたり。こういう『特別変でもない、それなりに癖のある人間たちがその時代の映画に関わっていた』という流れていく状況を捉えること自体、映画に狂った人間にしかできないことだと思うんですよ。大事件が生まれなくても、映画の周囲にある人たちの生活や夢があり、今もそれは続いているということをこの映画で表現したのではないんですかね。
 最後のクリフがガッツンガッツン壁に叩きつけるのなんか死ぬほど笑いましたけど、タランティーノ印のサービスシーンであって、タランティーノが敢えて避けていた(と勝手に思ってる)「直接的な映画の映画」を一旦総括したこと自体に価値があるような気がするのでした。面白かったです。長かったです。
八木

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