けとゲームプロデューサー

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッドのけとゲームプロデューサーのネタバレレビュー・内容・結末

4.6

このレビューはネタバレを含みます

タランティーノ9作品目(本当10作でやめないでほしい…)の「ワンスアポンアタイムインハリウッド」が中々に最高でした。
結構、事前知識ないと難しいテーマでもあったので、自分の整理がてら解説を書いてみました。

1969年のハリウッドを舞台に「シャロン・テート殺害事件」をリック(俳優_ディカプリオ)とクリフ(スタントマン_ブラットピッド)という2人の架空の人物をもとに
物語が紡がれる。
タランティーノ十八番の歴史を変えた架空の物語が、映画界を変えたとも言われる凄惨な事件を監督の集大成として描くということで、それだけで必見の作品です。

そもそも「シャロン・テート殺害事件」がテーマなのでその事件、当時の時代背景とその後をなんとなくでも知っといた方がいいので、まずそこから解説します。


<前提>
●「シャロン・テート殺害事件」
映画作家「ロマン・ポランスキー」の妻であり若手美人女優の「シャロン・テート」(マーゴット・ロビーが演じているのだが、まじでそれがハマり役)が家にいた3名と共に、ヒッピーのボス「マンソン」に殺害された事件。殺人現場には血で「Pigs」など書かれるなど本当に凄惨だった。
またあまりにも衝撃的な事件故、これを機にヒッピーが消えていくきっかけとなる。

●なんでこんなことが起こったのか
不可解な点は色々あるものの、一般的に
言われているのが、元々「シャロン・テート」の家には、音楽プロデューサーの「デニス・ウィルソン」が住んでいて音楽の夢があった「マルソン」がサポートもらおうと家に行ったら、「デニス・ウィルソン」はすでに引っ越していて、「シャロン・テート」に遭遇。その時クズな扱いを受けたとか、そもそもハリウッドの役者たちが金持ちなのが憎いみたいなところから殺しの対象となったとされる。

●ヒッピー
社会に反抗する若い集団。フリーセックス×ドラッグにまみれた娯楽の塊みたいな
若者たち。そのボスが「マンソン」

●当時の市場
・50年代は古き良きアメリカ時代。
経済成長でハッピー
60年代はベトナム戦争やその反戦運動
(これがヒッピーを生む)とかで時代が動こうとしていた時。(劇中でもヒッピーがポリスにファックとか言ってたが、そういうピリピリした時代を描いている)

・テレビの台頭で映画⇨ドラマに移ろうとしていた時代。
=>要は主人公のリックは元々西部劇とかで活躍していたけど、時代の変わり目に
対応できず落ちぶれていたということ。
(ちなみに、映画内ではマカロニウェスタン(イタリアの西部劇の地)でのオファーに「クソ」と言ってるが、これは当時無名俳優が出稼ぎにいく土地だった。その後クリントイーストウッドなどを生み出したすごい場所になるのだが)

<解説・感想(こっからネタバレ入るので観ていない人は観ないように)>
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●おとぎ話としてのハッピーエンドの解釈
冒頭に述べた通り、歴史を書き換えて解釈するのが得意なタランティーノがこの映画史上でも凄惨な事件をどう描くのかというのが魅力の作品。
そもそもタイトルのワンスアポンアタイムというのが、日本語で言うところの「昔々あるところに」であり、これがフィクションであると物語っている。およそ3時間かなり起伏が少なく描かれているのだが、タランティーノ作品でよくある時間や視点のトリックもないので中々中だるみはあるのだが、最後のカタルシスがすごい。というのもヒッピーたち4人組が「シャロン・テート」の家に向かう中で、観客としては「やばい、殺されちゃうのか…」という状態で緊張感マックスになるわけだが、実際家にいくとそこにはラリった「クリフ」がいる。(ここも、ドラッカーのヒッピーがシラフで、クリフがラリっているというのがアイロニックで面白い)。
包囲された「クリフ」が絶体絶命に思えたが、舌を鳴らした瞬間相棒の犬が見事に全員を撃退。その間、「クリフ」がひたすらゲラゲラ笑っているのが最高にかっこよくて面白い。そして終いには、「リック」がかつての役でやった火炎放射器で撃退するというのが、気持ち良さがピーク。(このあたりイングロリアスバスターズをパロっていて、ファンとしてはたまらない)そして、事件をきっかけに隣人にもお呼ばれし、おそらくこれから彼は栄光への道に向かうんだろうなってところでエンドロールが来る。

タランティーノ流の解釈により、凄惨な映画史上の事件を、ぶっ壊すのがすごく良く、映画、それこそおとぎ話くらいハッピーエンドにさせてくれと聞こえんばかりである。特に最後の復讐劇は見ていて気持ちよく、映画への愛を感じる。

●ディカプリオとブラットピッドというキャスティングの妙
なぜ、2人なのかというのが重要。この2人といえば、まさしくハリウッドの宝。浮き沈みの激しい世界の中でずっと王者の2人だからこそのこの作品。しかもディカプリオといえば、タイタニックの圧倒的美男子から一気に方向転換した男の側面もあり、だからこそ「リック」がハマる。
そんなディカプリオが「落ちぶれた俳優」の役をやるのが逆説的に面白い。また、彼らとしても、サブスクリプション時代に突入し、映画市場がまた変革期が訪れようとしている中で、それこそ「リック」みたいな可能性も0ではないわけである。

●ドラッグ・暴力の否定
この作品における負けは誰だったのか。それはヒッピーとクリフ。ヒッピーは勿論だが、クリフもまたドラッグを使用し、ナイフが刺さったことに我に帰り、
圧倒的な暴力を振るった結果、スタントマンとしての人生が終わってしまうのである。タランティーノなりのドラッグと暴力への否定を描いているのではないだろうか。

●その他見どころ
・リックがセリフを間違えて、ずっと暴言吐いてる時の固定カメラのシーンが最高すぎる。
・やけに大人びた子役の女の子が異常なプロ意識の高さとその演技がすごい。ジュリア・バターズすごいな本当、まじでナタリー・ポートマンを彷彿させる。
・セリフ間違えた後の演技がすげーこわばるリックが最高すぎる。
・ブラットピッドがひたすらにかっこいい。
・「FBI」でのフロントガラス越しのディカプリオの顔。
・気持ちを切り替えた後のディカプリオの怪演。目と表情だけであれができるのはディカプリオだけだよなぁ。
・シャロンテートがひたすらに可愛い
・ヒッピーのお尻を徹底的に描く感じ
・クリフのヒッピーのところに向かう不穏な雰囲気
・ナイフでパンクさせられナイフが刺さってぶちぎれるクリフ
・やたらと綺麗な女優にいびきをかかせるタランティーノ
・エンドロールのCMカット。タランティーノ自ら監督なのがいい。

色々書き綴ったが、タランティーノの映画への愛と事件の悔しさ、そして役者へのリスペクトを存分に感じた素晴らしい作品でした。(ちょっと長いけど)
一度じゃ咀嚼しきれなかったので、また見に行きたい。