蛇らい

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッドの蛇らいのレビュー・感想・評価

4.4
当時の映画業界の中心だったハリウッドの悲しい意味でのコア、シンボルになってしまったシャロン・テート。道半ばの未来ある彼女を殺したのは時代であり、世の中である。

しかし、映画に時代や世の中を動かす力が1ミリでもあるとするならば、映画業界で輝く彼女を守れなかったことは、映画業界の責任と言える。事件は時代性に流され、吟味をせず、大きな風潮だけに身をまかせて映画を作った末路なのかもしれない。ヒッピー文化が台頭し、アメリカンニューシネマが普及、人気を博して定着したこと自体、意識が軽薄で時代の負の新陳代謝に屈した事実とも受け取れる。

当時の時代への懐古や賛美ではなく、映画が時代や社会に屈してしまったことへの映画業界人、シネフィルとしての自責の念を強く持っているように思う。また、時代は繰り返すという概念があるとすれば、過去を描くことは今を描くことでもある。現在のポリコレを重視しすぎたり、敏感になりすぎる映画業界にも通づる部分もあり、方向は違えど、なんらかの足かせ、業界の発展を妨げる材料になることへの危惧も感じた。

そこで映画ができることはただ一つ、嘘を見せること。最近観た『ダークナイト』でも感じたが、一般市民と囚人の乗った船、両方に爆破できるリモコンを用意して、片方がリモコン押し、片方を爆破すれば片方は助かるという人間の根底にある弱さ、汚さをジョーカーに試されるシチュエーションがある。ジョーカーの残忍さ、人間の弱さを見せるために片方が爆破すればインパクトの強い映像が撮れる。

現実で同じようなことが起こったとしてもどらちかがリモコンを押す可能性は十分にある。むしろ押す可能性の方が高い。それでもノーランはどちらもリモコンを押さないという嘘を見せる。そこから見えるものや感じることが嘘から出た誠の誠の部分にならなければいけないと解っているのが映画人として尊敬できる部分だ。

それを踏まえて本作では完全な嘘を見せる。しかも映画人が映画を武器に映画的な手法で悪を滅ぼす。単純に解りやすいタランティーノのを楽しめるラストではあるが、もうひとつそこに乗っかる意味に感動できた。

そして、ブラピが最高だった。ブルース・リーを煽る声真似、ラリって犬の餌缶を開けるときにおぼつかない手元。すごい。ちゃっかり出演してるマヤ・ホークもいいね。たぶん、4時間くらいあっても観ていられる映画だった。

将来、リアルタイムでタランティーノ作品を観れていたことを自慢できるし、羨ましがられる時代が来ると思うので絶対見逃せない一本。
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