憚り

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッドの憚りのレビュー・感想・評価

4.0
タランティーノ映画で最も好きなシーンは何かと問われれば、『パルプ・フィクション』のオープニングを挙げる。ティム・ロスとアマンダ・プラマーのキス→咆哮→”ミザルー”の流れではない。その前だ。強盗の計画を語るロスが拳銃を取り出す際の、過剰に強調されたピストルとテーブルの接触音。実態からかけ離れた質量感。今まさにシゴトを為そうとする二人の緊張と高揚を見事に表現したこの演出には、タランティーノの映画的誇張に対する信頼とリアリティから逸脱することへの躊躇のなさが透けて見える。

久しぶりにジャンル映画への執着から解放された本作にも、作り物めいた表現が散りばめられている。例えばディカプリオが鏡に向かって怒鳴り散らすシーンで、虚像の目線が観客と正対するのは到底現実的ではない。ただ、これが映画である以上、圧倒的に正しい表現であるのもまた間違いない。斯様に演出面においてもフィクション>リアルの構図を崩さないからこそ、妄想で現実を塗り変えるという余りにも幼稚で身勝手な発想が確かな強度を持つ。
何よりも凄まじいのは、妄執に囚われたタランティーノが映画としての完成度に目もくれないことだ。フィクションが絶対的に優位である以上、素人であるマンソンファミリーの犯行は徹底的に間抜けでなければならないし、ディカプリオとピットの反撃は鮮やかでなければならない。たとえそれがスリラーとしての魅力、カタルシスを損なうとしても。

(追記)
終盤のナレーションが物語の圧縮に寄与していないという意見もあるようだけど、単に実録犯罪映画のオマージュな気もした。リアリティをぶん殴るための前振り。