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ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッドのyukoのレビュー・感想・評価

5.0
10作目で映画監督引退宣言をしている、敬愛するタランティーノの9作目、ということで複雑な想いが込み上げてくる今作品。

オープニングクレジットからタランティーノ節炸裂で小気味好いテンポで圧倒させるいつもの感じは身を潜め、クライマックスに向けて時間をかけて丁寧に噛みしめれば噛みしめるほど味わい深くなる、映画愛溢れる大人向けの作品になっている。

映画オタクのタランティーノらしく、彼の愛する作品のオマージュや、当時のハリウッドへのノスタルジーや音楽の格好良さや、西部劇愛、映画愛が存分に込められていて嬉しくて膝を打つ場面がたくさんあった。どうしようもなく魅力的なリックとクリフの圧倒的な存在感と、クライマックスこそタランティーノ節が炸裂する爽快感。あの夜こうだったら。。という彼なりのパラレルワールドは愛に満ちていて、最高のお伽話だった。

全盛期を過ぎて自分を模索したり落ち込んだりしているリックに、9作目というこのタイミングのタランティーノ自身の想いを投影してるのかなとか。(個人的には作中のリックの演技にもタランティーノにも落ち目なんて全く思わないし、死ぬまで映画を撮っていて欲しいけど)映画業界にも俳優にも監督にも逆らえない時代の流れや盛者必衰があって、「映画監督は若い人の仕事だ、もっと観たいと惜しまれつつ辞めるのが理想だね」と言っている監督としての想いは、常にしのぎを削りながら最高値を目指すスポーツ選手にも通じるストイックな精神とも似ていて、でもファンとしてはとてつもなく寂しい。

で考えたのだが、この映画って映画ファンに向けた映画ではなく、タランティーノが映画の作り手達に向けて撮った映画じゃないのかなってこと。映画のプロである映画人達へ捧げた、作り手側の映画愛を込めた映画だったんじゃないかと。そんなプロ達の熱量を観させてもらったのではないか。

10作で撮るのを辞めると宣言してる、このタイミングにこの映画を撮ったということは、題材選びにも相当な覚悟や意味が込められているのだろうし、本当にタランティーノ作品があと一作しか観れないのであれば寂しくて切ないけど、何故だか色々込み上げてきて心が暖かくもなって、なんとも言い難い気持ちになった。

こんなに映画に対する愛を込めた映画を、臆することなく素直に作ってしまうタランティーノが大好き。流行れば廃れ、人は皆平等に老いていき、新しいものが次々に生まれ、古いものは引退していくけれど、やっぱり映画って本当に良いものだなぁと、そんなことを思って涙目になった。

そして彼のような映画人もまた、ワンスアポンアタイムインハリウッド。。。と語り継がれる日が来るのかもしれない。
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