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ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッドのkomoのネタバレレビュー・内容・結末

4.5

このレビューはネタバレを含みます

かつて西部劇のTVシリーズで人気を博していたリック・ダルトン(レオナルド・ディカプリオ)は、今や落ち目の俳優となっていた。起死回生を狙うリックを、彼のスタントマンであり親友でもあるクリフ(ブラット・ピット)が見守っている。
ある日リックと共に映画の撮影現場に向かったクリフだったが、訳あって二人は別行動となり、クリフは奇妙な場所へ向かうことになる。
後に二人の運命を大きく変えることになるその一日と、それから半年後、ハリウッドを震撼させたあの『シャロン・テート殺害事件』が起こった1969年8月9日の出来事が描かれる。


期待に違わぬ面白さ!!!
やはりタランティーノ監督は凄まじい執念とセンスを持つ人なのだと再認識しました。
私は往年の映画に詳しくないため、散りばめられた美味しい小ネタを理解しきれていないのが悔しいのですが、それでも監督の映画愛がこれでもかというくらい伝わってきました。

映画の構成としては、俳優として挽回を狙うリックの苦悩と、彼と別所で動くクリフの奔放な行動の描写にほとんどの尺が取られています。タランティーノ監督の過去作に倣い、『意味のない会話』と思われるシーンもあるものの、1969年8月9日のシチュエーションにがっしりと繋がる、揺るぎない根幹のある脚本に驚かされるばかりでした。
メディアで話題になった『衝撃のラスト13分』というのは、まさにその8/9を描写するシーンの事です。こちらについては後述します。

まず、全体的に自暴自棄のレオ様最高すぎます。
台詞を忘れた自分に苛立ち、トレーラーで自我を失うあの激しい芝居はアドリブだそうで…。劇中では落ち目の俳優ですが、現実のレオ様は経年と共に脂の乗って行く素晴らしい役者であり好感度しかありません。
ブラピもまた心身共にマッチョで自信たっぷりの役回り。ファイトクラブでの彼を彷彿とさせる、『男が憧れる男』像。クリフの強靭無敵でおちゃらけたキャラクター像、ほんとにかっこいい…。

上記2名は架空の人物ですが、実在した女優、シャロン・テートにマーゴット・ロビーが扮しています。名監督ロマン・ポランスキーの妻でありながら、女優としては駆け出しのシャロン。自身が出演した映画のポスターを街角で見つけ、嬉しそうに映画館へと入って行く姿が愛嬌たっぷりです。そしてそこで流れているのは、シャロンが出演していた実際の映画。

それからクリフとケンカする羽目になるブルース・リー(マイク・モー)。こんな扱いで大丈夫なのでしょうか…(笑)
2人がハッスルして車がベコベコになるまでのくだり、めちゃくちゃ面白かったのですが、声を上げて笑っている観客が他にいなかったので必死にこらえました^^;

また、大人びた8歳の子役トルーディ(ジュリア・バターズ)はリックを評価し、慰める立場にありました。女優として前途洋々な彼女は、役者としての光を失いかけているリック、そして26歳で殺害されることとなるシャロンとは対極に位置する人物です。
タランティーノ監督はこのキャラクターを通して、これからの映画業界に瑞々しい希望があることへの賞賛をしたかったのかなと考えてしまいました。
そしてそしてプロデューサー役でアル・パチーノも出演しており、実に濃厚なキャストです。

冒頭でイタリアを毛嫌いしていたリックですが、最終的にイタリアに渡り、マカロニウエスタンで成功を収め、現地で奥さんまでゲットして帰国します(マカロニナイズドされたレオ様の髪型がいい感じ)。
リックとの仕事に終止符が打たれることを悟ったクリフは、飼い犬を可愛がりつつ、『あの日』『ヒッピーの女の子から』手に入れたLSDをやって過ごします。
このLSDこそが彼の勝因となるわけなのですが、元々それを持っていたのはヒッピーなんですよね。これが皮肉でもあり、稀有な運命の象徴でもあります。
ラストシーンでクリフとリックが闘うのは、チャールズ・マンソンの支配下にあるヒッピーの若者。
ラリってるクリフ、寛いでいたリック、そしてクリフに忠実なワンちゃんは、成り行きでヒッピーたちを撃退します。ワンちゃんは危機を察しての賢明な働きでしたが、他の2人は襲われている自覚すらなくあっけらかんとしていました。いや本当に痛快です。かなりグロテスクで残虐なシーンなのですが、他のタランティーノ作品よりも『フィクションみ』が強いおかげで、すっきりと観られます。

なぜフィクションみが強いと感じたかといえば、この作品のタイトルが『ワンスアポンアタイムインハリウッド』……つまり『昔々、ハリウッドでこんなことがありました』というタイトルでありながら、『史実と違う物語を描いているから』です。
この作品では、シャロン・テートが殺害されずに済むのです。リックとクリフが殺人鬼たちを撃退したおかげで。

正直なところ、殺人鬼たちがシャロンの邸宅ではなくリックたちの方へ向かった時点で、シャロンが死なないという結末は予測できました。
けれども、最後まで互いに生き残ったシャロンとリックの邂逅はとても温かいものであり、大満足のラストシーンでした。
あの爽快な応戦シーンと、そしてこの平和な結末は合わせてたった13分。しかしこのエンディングを描くために長尺が費やされたことも納得です。

この映画を見て調べたばかりの付け焼き刃の知識ですが、現実世界におけるシャロン・テート殺害の裏には、チャールズ・マンソンという人物が率いていたカルト教団の重苦しい陰があったそうです。その全貌は映画では描かれていませんが、そういった史実も古き良きアメリカを知る上で重要だとは思います。
しかし私は、タランティーノ監督が本作で見せてくれたような、歴史を希望的な形で出力するエンターテイメントを実に心地よく感じました。また、俳優という輝かしい立場の者だけでなく、スタントマンという影の職業への賛歌も含めて、本当に映画愛に満ち溢れた作品だと思いました。

ところでヒッピーの女の子たちの中にユマ・サーマンの娘さんがいたそうです(知らなかった)。ダコタ・ファニングも観られて良かった!
パルプフィクション等のタランティーノ作品でおなじみの煙草、『レッド・アップル』のCMも痛快でした。何年にも渡る自作のモチーフをここでこんなに活かしてくるなんて…!
あらゆる箇所でタランティーノ監督の集大成的なエッセンスが感じられる作品でした。監督自身はあと一本しか撮らないと公言しているそうですが、まだまだ多くの作品を撮ってほしいです。
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