Iri17

男と女、モントーク岬でのIri17のレビュー・感想・評価

男と女、モントーク岬で(2017年製作の映画)
4.7
あの時こうしていたら自分の現在、未来はどうなっていただろうか?と夢想することは誰にだってあるだろう。

すれ違ってしまった2人が過去を清算するために訪れたモントーク岬は、2人の後悔と過去を象徴する地であり、『エターナル・サンシャイン』にそっくりな海岸線は、過去の選択の結果失ってしまった女性への執念を象徴しているように感じる。

特徴的な主人公のカメラ目線の独白と、小説家という職業が表しているようにこの作品は小説的である。
過去を回想するという話でありながら、回想シーンを一切使用せず、会話と朗読のみで、過去を伝えている。
これは一見、話を理解しづらくしているようではあるが、観客の想像力を活かして、物語世界の形成に観客を参加させるという落語や能などの日本伝統芸能のようなスタイルといえる。ようは、2人の話から過去はこんな事があっただろう、こんな風だったのだろうと観客1人1人に想像させているのだ。こうする事で物語は観客1人1人によって無限に広がるし、何度も観る楽しさが生まれる。
派手なアクションや回想シーンを使わず淡々と物語を進めていく、小説的で落語的とも感じる。

これで過去にタイムスリップしたり、平行世界に移動しようものならSFであるが、ステラン・スカルガルドの絶妙なそこら辺のおっさん感と素晴らしい演技が現実味を醸成しており、きっと歳を召した人なら誰だって1度は考え、経験するようなことだと思う。若干22の僕だっていくらでもあるのだから。

別にそこまで似てる訳じゃないし、監督も知らないと思うけど、有島武郎の短編小説『生まれ出づる悩み』を思い出した。理想と現実の齟齬に苦しみ、ひたすら相手のことを想像する話なのだが、すごく似ているなと。

僕好みの素晴らしい作品でした。ソフト出たら購入します。
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