これは想像以上によかった…涙
リチャード(ジョニー・デップ)は大学で英文学を教える教授。背中の痛みで病院を受診すると、医師から末期の肺ガンだと伝えられる。治療をすれば1年程度は生きられると告げられるが、リチャードは治療をせず余命6ヶ月を生きることを選択する。そんな彼に対し、追い討ちをかけるように妻のヴェロニカ(ローズマリー・デヴィット)から大学学長との不倫を打ち明けられる。
突然余命6ヶ月を突きつけられた人間が、どう気持ちに整理をつけ、どう死と向き合っていくのか、オフビートで静かながらとても丁寧に描かれた作品だった。
冒頭、突然末期ガン宣告をされたリチャードは呟くように2回、溜息まじりに"Fuck…"とこぼす。そしてその後、ようやく現実が飲み込めたかのように、今度はブチギレながら"Fuuuuck!!!!"と暴れ回り、キャンパス内の池で絶望する。
人が死を目の前に突きつけられたらこんな感じなのかもなぁ。
家族に伝えようかというその日の夕食の席、愛娘のオリヴィア(オデッサ・ヤング)の突然のレズビアンカミングアウトに対し、優しく受け入れるリチャードと、嘲笑うように否定するヴェロニカ。怒って出て行ってしまうオリヴィアと、口論に任せて自身の不倫をカミングアウトするヴェロニカ。そしてなにも言い出せないリチャード。
言えない…言えないよなぁ。娘に対する愛情と裏腹に冷め切ってしまった夫婦関係はリチャードを無敵の自暴自棄へと駆り立てる。
翌日、吹っ切れてしまった自身の講義に集まった学生たちを横暴に講義から追い出す。結果として、本当に文学に興味を持ち、人生を丁寧に生きようとする学生が残ったのは彼の残りの人生を豊かにするのに大きな助けになったんだろう。
"スウェットパンツを履いてるやつは出てってくれ"
一度は酒やマリファナに手を出し、自暴自棄のようになってしまうリチャードだが、自身を慕ってくれる学生や親友のお陰で、本当に自分が謳歌したかった「自由」を思い出し始める。
"存在するだけじゃなく生きるんだ"
学期末に自分の講義を最後まで受けてくれた学生たちに向けたリチャードの演説のシーンはとても素敵だった。時代や大衆に迎合せず、自分の頭で考えて、丁寧に生きることの重要性を、そしてそれを伝える使命をリチャードは思い出した。
"凡庸さに屈するな"
後半、いよいよガンが進行し、具合が悪くなってきてからの教会でのピーターとのやりとりや、家を出る前のオリヴィアとの会話は本当に泣けた。死にゆく人間は素直に感謝と愛を伝えられるのに、残される人間はやっぱり悲しみに耐えられないのかな。
もし自分が死ぬってわかったら妻と息子に伝えられるかな。妻には伝えられるかもしれないけど、息子にはなんて言えばいいんだろう。
最後の最後までオリヴィアに優しい言葉をかけたリチャードの姿が印象的だった。
とても悲しいテーマでありながら、オフビートな笑いのおかげで重たくなり過ぎず、リチャードの残りの日々をゆっくり味わうようなスローテンポな雰囲気だったのがとても素敵だった。
ラストシーン、道なき道へと繰り出したリチャードはどこまで辿り着けるんだろうか。
ジョニー・デップ自身、プライベートでとても大変なことがあった時期の作品。彼の愛と哀しみが、ナイマゼになったような演技がとても染みる90分だった。