フライ

アナと世界の終わりのフライのレビュー・感想・評価

アナと世界の終わり(2017年製作の映画)
4.0
最初は正直見るに堪えないシーンもあったが…ミュージカルシーンの歌詞が、かなり芯を食っていて胸に響いた。
アナという少女を中心に、青春群像劇的な、世の中が分かっていないからこそ現実逃避したい気持ちと、世界の不条理や矛盾などを、非現実的なゾンビを使い世界の危機と掛け合わせながら現実を見せるのは斬新で、とても楽しめた。

大学進学を控え高校生活も終わりを迎えようとしていたアナ。母親を亡くし、信じていた恋人にも裏切られるなど今の生活にとても悲観していた。
高校の用務員をしているアナの父親トニーの車で、密かにアナに想いを寄せる幼なじみで親友のジョンと一緒に学校に向かう途中、ラジオから流れてきたのは、世界中で死に至るウイルス蔓延のニュースだが、アナは全く感心を向けず他人事のようにラジオ消す。トニーは娘アナの大学進学を心配し心情を吐露するが、秘密にしていたオーストラリアへの長期一人旅計画を、ジョンにバラされ最悪の空気に。
校内では夜開かれるクリスマスイベントで皆忙しいが、アナの友人でトランスジェンダーのステフは、両親との確執に苦しむが、ホームレスに手を差し伸べる優しい人物。しかし色々な事で落ち込んでいたステフを励まそうとしたアナを意図しない言葉で傷付け自分も更に傷付いてしまう。
現実から逃げたいアナや、勇気が出せないジョン、自分を知って欲しいステフなど色々な事で苦悩する多感な生徒達を、翌日訪れる世界の危機により世界観が一変してしまうのだが。

伏線の張り方も良かったが、兎に角、皮肉と飛びまくった世界観が素晴らしいし、面白い!そんな世界を、更にぶっ飛びまくったホラーで表現しているのが余りにもシュールなのだが、芯を食った歌詞とクオリティーの高いミュージカルシーンが上手くストーリーを組み立てていて、とても良かった。
アナやジョン、ステフなど彼らの色々な苦悩や、社会の無秩序や差別、歪んだコミユニケーションと制御出来ないデジタル社会をゾンビと言う有り得ないシュールな危機を使いながら皮肉たっぷりに表現しているのが、素晴らしかったし面白かった。グロシーンや心が痛むシーンだらけだが、綺麗事では無い残酷で無慈悲な現実社会を表した様な内容がピッタリに思え、皮肉を込めたストーリーや悲惨なラストと感動に、とても好感が持てる作品だった。

不思議で奇想天外な唯一無二の、ミュージカルゾンビ映画?だが、歌詞や世界観が素晴らしく思わず二回見してしまった。そして二回見て気付いた、アナや若者達が暮らす世界の息苦しさと、矛盾に満ちた世界が腑に落ち、見ている自分まで感情移入し苦しくさせるのは、ある意味素晴らしく思えた。
突飛でツッコミ所だらけの作品なので、中々世界観には入りずらいと思うが、結構奥の深い作品なので、興味のある人はじっくり見て欲しいと思える映画だったし、このコロナ禍と言う悲惨な時期だからこそ、尚更見て欲しいと思える作品にも思えた。特にラストのアナと父親トニーの歌は泣けたし感動した。
因みにゾンビはエッセンスみたいな存在なので、ホラー映画として期待して観ると梯子を外されるので注意。グロ苦手な人も注意。
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