MasaichiYaguchi

焼肉ドラゴンのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

焼肉ドラゴン(2018年製作の映画)
3.4
鄭義信さんが、数々の演劇賞に輝いた自らの人気戯曲を映画化した本作では、大阪で万国博覧会が開催された高度経済成長期の真っ只中、その繁栄とは無縁な地方都市の一角で小さな焼肉店を営む在日一家のドラマを通して、時代の流れの中で埋もれた人々の逞しい生き様や家族の強い絆が描かれる。
在日の再婚同士の夫婦・龍吉と英順は、夫々の連れ子である静花、梨花、美花という娘たちと長男・時生の6人暮らし。
世の中が好景気に湧く中、主人公たちを含めて周りに住む在日韓国人は時代の勢いに置き去りにされている。
この焼肉店一家は各々が悩みや葛藤、心の傷を抱えていて、物語が進むに連れ、それが浮き彫りにされる。
当時、私は東京下町の小学生だったこともあるが、通っていた学校の近くに朝鮮学校があったにも拘らず、何一つとして在日韓国人について知らなかったし、知ろうともしなかった。
本作を観て、当時の自分を振り返りながら、彼らが置かれた立場や状況が今になって初めて理解出来たような気がする。
そして、映画で何度か登場する言葉「たとえ昨日がどんなでも、明日はきっとえぇ日になる」を信じて前向きに頑張って生きていた人々の鼓動がスクリーンから伝わってきた。
私たち年代にはバブル経済期よりもはるか昔で朧げな記憶の時代だが、本作で笑いと涙を交えて描かれた在日一家の悲喜劇は、人々の持つバイタリティーや家族の強い繋がりを改めて感じさせてくれる。