エミさん

焼肉ドラゴンのエミさんのネタバレレビュー・内容・結末

焼肉ドラゴン(2018年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

昭和44年以降。高度経済成長に沸く大阪。万博の開催に伴って土地開発も本格化。空港の拡張も進んでいく、そのすぐ横には、まだ太平洋戦争の爪跡のようなバラックの一角が残っていた。韓国済州島出身者が多く暮らすその一角で『焼肉ドラゴン』を営む家族。その家族を中心とした悲喜こもごもな話である。

この映画の監督をした鄭義信氏が、2008年にこの作品の原作をして、舞台上演を行い、以来、多肢に渡り多くの絶賛を受け、とうとう映画にまでなってしまった。劇作家が映画監督までして自分の作品をプロモーションしてしまうなんてスゴいなぁ〜と思った。
私は、実際に舞台も観ていますが、作り手が同じなので、映画と舞台の内容は、演出や台詞などは区別しているものの、展開はだいたい同じです。良い部分は裏切らず、そのまま起用して表現している所はファンとしては安心して観られました。

茶色くくすんだトタン屋根と木材のバラックが立ち並ぶ一角のすぐ上をスレスレに飛んでいく飛行機の臨場感だったり、その風に煽られて舞う桜吹雪の鮮やかさだったり。正反対のものが調和して、とても綺麗な情景を醸し出す場面は、この物語の未来を写すとても大切なシーンだ。舞台でもこの演出を大事にしていたが、臨場感の鮮やかさや迫力は、舞台では作れない映画ならではの映像と演出があって、とても良かったです。

そしてこの物語は、これから日本と韓国という2つの祖国を背負って生きていく子供達が主役なのだが、映画の演出では、戦争という歴史に翻弄された済州島の人々の心情が濃く印象付けられるように、龍吉と英順の夫婦に焦点を当てた演出をしている所に特徴があると思えた。実際の、GHQの対応や残留を決めた人々の史実などは、当事者のみぞ知ることであり、実際のところは分かりませんが、エンタメ作品なのでこの際、フラットな気持ちで客観視して観ると、キャッチコピーにもあるように、全員が本気と本音で生きていることのルーツが徐々に判ってくると、何が正しいとか、誰がどこに住むかとか、そういう次元でモノを推し量ることが浅はかに思えてくるほど、普段は寡黙な龍吉の、ここぞという語りには説得力があった。鄭義信氏は、そういった弱者の代弁を、作品を通して好意的に表現しているが、決して非難や否定をしている訳ではない。好き嫌いとか善し悪しではなく、歴史を知り、現実を知り、ただそういった人達も居たんだ、という事実を受け入れることに意義がある。そういう意味では映画の方が、より気軽に楽しく触れることができる。

キャストの演技も熟練されているので、面白くて、観終わった後、感情を動かされて体温が1度上昇する…。そんな良質な映画でした。