賽の河原

焼肉ドラゴンの賽の河原のレビュー・感想・評価

焼肉ドラゴン(2018年製作の映画)
3.7
「高度経済成長期の片隅で描かれる、小さな家族の、大きな歴史の物語」とありますけれど、大阪の在日コリアンの家族を中心にした話で面白かったですし、なかなか教材みの高い映画でしたね。
元々が演劇だったらしく、まあ喜怒哀楽を前に出したやかましさは否定出来ないですけど、それ自体がポジティブなエネルギーとして感じられて私は好きでしたよ。
彼らは事あるごとに「あー!!」って叫ぶんですよね。もうこの叫び自体「言葉にならない感情の発露」「やりきれない思い」だったりするわけですけど、そういう叫びは伊丹空港に降りるジェットエンジンの音にかき消されるわけですよ。
時は1969年から71年。大阪万博が開かれて、オイルショック前の高度経済成長期の日本が伊丹空港のジェットエンジンの音に象徴されている、いわば「在日コリアンたちの声にならない感情や叫びを、俺たち高度成長期、戦後の日本人はかき消してきた、まともに向き合って来なかったんやぞ」っていうメタファーになってるんですよね。歴史に翻弄される人々の姿が教材み高いですわ#。
じゃあ一方でそういう重い社会派な話かというと別にそういうわけでもなくて、まあ割りにドタバタした家族の話や色恋沙汰がバタバタ続く。これも結構演劇的に、登場人物がフレームアウトしてったり掛け合いをしたりとか面白かったですし最高でしたね。ご返杯!とか。
言ってしまえば「別にこの話を在日コリアンの家族の物語のなかで描く必要があるのか」みたいな話も言えますけど普通に面白かったです。
終わり方も凄く上品ですよ。映画の中ではまあ、それなりにハッピーエンドなテイストで終わっていくんですけど、現代に生きて過去をしっている我々からすると「うわぁ...」っていう部分も含むエンディングになってる。しかも「でも...やるんだよ!」の構造も含まれていて最高でしたね。
「たとえ昨日がどんな日でも、明日はきっとええ日になる。」というコピーは、凄くアイロニカルに計算されたコピーだと思いましたね。
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