LalaーMukuーMerry

焼肉ドラゴンのLalaーMukuーMerryのレビュー・感想・評価

焼肉ドラゴン(2018年製作の映画)
4.3
大阪万博で盛り上がっていた1970年頃の大阪の伊丹空港の近く、コリアンたちが集まってあばら家で暮らす地域、そこで焼き肉屋を営む在日コリアン一世の夫婦とその子供たち。年頃の三人娘のうち上の二人は前妻との間の子、下の一人は妻の連れ子、夫婦の実の子は末息子(中学生)だけというちょっと複雑な家族。それでも夫婦は分け隔てなく子供たちを育てた。そんな家族のお話。三人の娘がそれぞれ結婚して独立していくまでのゴタゴタが描かれます。子を思う親の気持ちはどこの国も同じ。その気持ちが濃いというか、気持ちのぶつかり合いが激しいというか、いかにもコリアン。年齢的に近いから、この夫婦に感情移入して映画に入り込みました。逞しく一生懸命生きる家族の姿が強烈な作品でした。

たとえ昨日がどんなでも、明日はきっとえぇ日になる。 
生きろ、生きまくれ!
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でもこの家族、どうしてこんな暮らしをしているのだろう? どうしてもそこが気になってしまう。父親の話でおぼろげに過去の出来事を想像するしかできませんが、背景にあるのは在日コリアンに対する日本人の差別意識。アメリカの黒人差別は知っていても、日本の在日コリアン差別については知らない日本人が意外と多いのかもしれないから、この作品で知ってほしいと思います。
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知ったうえで差別を無くすようにしていくこと、何も知らずに分け隔てなくコリアンとつき合うこと。そのどちらでもよい。けれど、知った事によって反感を互いに強めるようなことだけはしないように。そう思います。
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~時代背景など~
その1 コリアン差別
明治になって近代化を進めた日本は西洋に多くを学んだが、良くないことも学んだ。その一つが植民地政策。列強による支配をはねのけるために日本はあらゆる方面で大改革をおし進め(明治維新)、驚異的な早さで富国強兵をなしとげ、それを背景に早くも海外進出して植民地をつくろうとした。その対象が朝鮮半島(と台湾)だった。そしてアジアの植民地の人々に対する白人の態度と同じことを、コリアンと日本人の関係に置き換えた。日本人が利権のほとんどを握り、コリアンは貧しい生活を余儀なくされたので日本の支配に不満が高まった。
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日本を擁護する人たちは、(1)弱肉強食の帝国主義の時代にはそれが当たり前、そうしなければ日本が植民地化されたのだから仕方ない、という。そして、(2)日本の植民地支配の実態はヨーロッパ諸国の植民地支配とは全く違った、ともいう。(1)はそうなのかもしれないが、(2)の具体的理由(ヨーロッパは現地人の支配階級を優遇し、現地の文化や慣習に干渉しなかったので、人々の教育水準は低いままだった。それに対して日本は現地人に教育を受けさせ日本人化しようとしたので識字率も教育水準も上がった、そして現地の水道・電気インフラも本国と同じように整備した・・・ )も事実そうだったと理解できるけれど、現地人を日本人化させようとしたところにそもそも無理があったし、その中でコリアン差別の意識がしっかり根づいていったと思われるから、根っこの所でヨーロッパ人の支配と同じだと感じている。
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その2 済州島四・三事件(1948)
ほとんどの日本人は知らないこと。主人公のお父さんが済州(チェジュ)島で経験した白色テロによる虐殺事件。島民の5人に一人、約6万人が殺され、島の村の7割が焼き尽くされた。このせいで二人は韓国に帰ることを諦め、日本で暮らすことを決めた。白色テロというのは、政府機関(警察や軍隊)が自国民に対して弾圧をすること。特に弾圧された側の人たちが、(実際にはそうでなくても)共産主義者と見なされた場合が多く、冷戦時代には世界各地で起きたようだ。特に戦後間もない韓国では酷かった。
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その3 帰還事業(帰国運動)
今の北朝鮮を考えると想像もつかないが、当時北朝鮮は社会主義がうまくいって「地上の楽園」と思われていたらしい。日本の左派系の新聞もそのような記事で運動を煽ったこともあって、在日コリアンの人たちを半島(特に北朝鮮)に帰還させる事業が1960~70年代に行われていた。(北朝鮮と日本は国交がなかったから、実務は日本と朝鮮の赤十字社が行っていた)
映画でも上二人の娘夫婦は、帰還事業に乗ってそれぞれ北と南に旅立った。その後の歴史を知っている者としていうと、何故そんなことを・・・と思ってしまう。
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韓国では北朝鮮の事を北韓といい、北朝鮮では韓国の事を南朝鮮と呼ぶ。現在は米ソ冷戦の影響で南北分裂しているが、以前は一つの民族国家(李王朝or朝鮮王朝or李氏朝鮮)、実体として一つの民族だったわけで、それを何と呼ぶかというと、南では韓民族、北では朝鮮民族というらしい。なんでいちいち言葉を変えるのだろう? 
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英語では、国はKorea、人と言語はKoreanで、これにNorthとSouthをつけて区別するだけ。Koreanに一つの民族というニュアンスが一番あるように思えるから、ここではコリアン、在日コリアンという言葉を使いました。(日本では、在日韓国人と在日朝鮮人の意味の違いはしっかりあるようなので、そのことに囚われたくなかったから)