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クリード 炎の宿敵のnetfilmsのレビュー・感想・評価

クリード 炎の宿敵(2018年製作の映画)
3.8
 前作から3年、“プリティ”・リッキー・コンラン(アンソニー・ベリュー)戦での惜敗のあと、アドニス・ジョンソンことクリード(マイケル・B・ジョーダン)は順調にキャリアを積み重ねていた。WBC世界ヘビー級タイトルマッチ、栄光のリングに駆け上がった男は遂にベルトに手をかけるのだが、今作においてベルトはあまり大きな意味を持たない。ラスベガスのMGMのリングから、恋人ビアンカ(テッサ・トンプソン)と暮らすフィラデルフィアへ。王者の成長物語は順調に進むかに見えたが、そこに意外な強敵が現れる。今作は『クリード 炎の宿敵』の純粋なる続編ながら、それと同時に『ロッキー4/炎の友情』の続編とも言えるだろう。米ソ冷戦末期にあたる1985年、プロボクシング協会に参入した旧ソ連から、1人の大男が送り込まれる。ロッキー・バルボア(シルヴェスター・スタローン)より遥かに大きい上背、金髪の角刈りで威嚇する男のインパクトはいまだに忘れられない。今作はあの悪名高いイワン・ドラゴ(ドルフ・ラングレン)が30年余の私怨を滾らせ、ロッキーとクリードの前に思いがけなく現れることから始まる。ウクライナ・キエフの豪雪地帯、父親は息子にボクシングのイロハを教え、満を辞してクリードに挑戦状を叩きつける。

 『ロッキー4/炎の友情』の弔い合戦とも言える今作は、直接的にはクリードvsヴィクター・ドラゴ(フローリアン・ムンテアヌ)の真剣勝負でありながら、まるで『スター・ウォーズ』シリーズのようにロッキー・バルボアとイワン・ドラゴの30年前の因果を結ぶ。それはクリードの父親だったアポロ(カール・ウェザース)の死とも無縁ではない。愛人の息子として、父親の面影を見ることなく育った主人公はそれゆえに愛情深い母親メアリー・アン(フィリシア・ラシャド)に縋り、前作で遂にロッキーという「代父」に出会う。続編となる今作では、父親不在だった息子が代父に出会い、実父の血塗られた因果と葛藤し、そして父になる。因果は巡りながらも、ロッキーは勝者の帝王学と自身が30年前に抱いたほろ苦い思いをクリードに叩き込んで行く。だが30年間の時は残酷でどこまでも儚い。アメリカの自由の体現者だったジェームズ・ブラウンの多幸感溢れる歌声はここにはなく、まるでRihannaやFKA twigsのような近未来的なビアンカの歌が戦場を優しく包み込む。新シリーズはクリードやライバルたちの線の細さが玉に瑕だが、『ロッキー4/炎の友情』のブリジット・ニールセンの再登場には溜息が出た。業を背負った人間たちの悲しい背中の説得力を前に、現代ボクシング業界の趨勢やリアリティも思わず霞んで行く。
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