風の旅人

クリード 炎の宿敵の風の旅人のレビュー・感想・評価

クリード 炎の宿敵(2018年製作の映画)
4.0
イワン・ドラゴ(ドルフ・ラングレン)の息子ヴィクター(フローリアン・ムンテアヌ)とアポロ・クリードの息子アドニス(マイケル・B・ジョーダン)の因縁の対決。
イワンはロッキー・バルボア(シルヴェスター・スタローン)に負け、地位も名誉も失い、復讐に燃えていた。
プロボクシングの世界では人気者は優遇されるが、ロシアの選手がアメリカで成功しようと思ったら、ただ強いだけではチャンスを与えられない。
恐らくイワンはあの敗北が原因で干され、その後チャンスを与えられなかったのだろう。
同じ「一敗」でもアメリカ人とロシア人では重みが違うのだ。
作中では詳しく語られないが、イワンが相当な辛酸を嘗めたことは想像に難くない。
確かにアポロはイワンとの試合が原因で命を落としたが、それはリング上のことであり、タオルを投げられなかったロッキーにも責任がある。
この映画の脚本が優れているのは、アドニスとヴィクターの試合を単純なアポロの弔い合戦にするのではなく、複数の親子の絆を描いたことにある。
だからアドニスとヴィクターの試合が最高潮に達したところで「ロッキーのテーマ」が流れ、30年前にロッキーが投げられなかったタオルをイワンが投げたときは心が震えた。
今作も前作に続いてライバルに本物のボクサーをキャスティングし、「ロッキー」シリーズの弱点だったボクシング描写が強化されていた。
ヴィクターは中間距離では圧倒的な力を発揮し、アドニスの左リードに対し、右の打ち下ろしのカウンターを放ってくる。
だからロッキーはヴィクターの腕が伸び切らない位置なら致命傷を防げると踏んで、アドニスに接近戦を命じたのだろう。
これは今作に登場したウィーラー役のアンドレ・ウォードが対セルゲイ・コバレフ戦で取った作戦だった。
途中から主人公補正のあるアドニスではなく、負けることを運命づけられたヴィクターに肩入れして観ていた。
王座乱立で誰が一番強いのかがわかりにくい昨今、「王者のベルトより、記憶に残る物語」を生み出すことに価値がある。
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