マクガフィン

ガチ星のマクガフィンのレビュー・感想・評価

ガチ星(2018年製作の映画)
3.7
中年男の人生の再生譚はありきたりな設定だが、「映像はセリフよりも強し」を具現化したような画力の強さに圧倒される。リンクを周回してゴールを目指す競輪の設定も、作品のテイストと主人公にマッチして味わい深い。

長年、野球に携わった喪失はとても大きく、積み上げたエゴを全て崩して、再出発することは中々できないものではない。クズな描写が続いても、全てを軽蔑できないと思っていたのだが、想像以上に何度も挫折と失敗を繰り返し、欲に負け続けるので、流石に呆れる。

行き詰る人生の中で焦燥感を抱き、漠然とした日常のやるせなさがギャンブルや酒の依存に繋がり、仕事が続けられない倦怠感の描写は、何とも言えない人間の弱さが漂う。「努力しかない」と競輪学校の同部屋の年下に、偉そうに吐いた言葉がブーメランのように突き刺さる、カッコ悪さと切なさ。分かっているのだが踏み出せなかったり、継続できないことでもあり、身につまらせる。

主人公と対比である努力家で結果を残す青年が、絶望的な試練に遭遇した時の壮絶な努力。青年のパーソナリティの内的統制に触れることで、目覚める心情描写は熱く、年下の鬼教官がトリガーになるシークエンスも上手い。

レースの着順だけではなく、何かを得るためにだけでもなく、現状を打破する決断と行動の重要性を考えさせられる。人の人生には其々にドラマがあり、背負うもの人それぞれ。背負うものをエゴとし、エゴをぶつけ合うラストのレースの先にある、僅かな希望の光に感銘を受ける。