茶一郎

ギャングースの茶一郎のレビュー・感想・評価

ギャングース(2018年製作の映画)
4.0
 最高に牛丼が食べたくなる映画『ギャングース』。腐れ縁同級生の3人、「同級」は「同級」と言っても少年院で出会った同級生3人が、ドン底(住民票が無いというレベル)を抜け出すために犯罪者をターゲットに強盗をするタタキ団を結成する物語です。

 入江悠作品を「オラ、こんな村いやだ」と表現した宇多丸氏が本当に見事で、復活作『SRサイタマノラッパー』から地方都市における若者のドン詰まり感を描き、そして『太陽』では格差社会、前作『ビジランテ』では得意のコメディを一切排し埼玉版『カラマーゾフの兄弟』に挑戦する、最早ドフトエフスキー、プロレタリ映画作家へと変貌を遂げた入江悠監督の最新作『ギャングース』は、エンタメ度を高めながらも、かつての作品全ての要素を詰め込んだ集大成でした。

 「漢字が読めないから」と強盗・タタキに走る彼ら、そしてその犯罪でしか繋がる事ができない疑似家族の様子は、まさにポップな強盗版『万引き家族』。またどうしようもないけど愛おしい三人のすったもんだは、再び『サイタマノラッパー』のあの三人を見ているようでした。『ビジランテ』にMC IKKUがいたら本作のようになっていたかな。
 そして描かれる「新しい貧困」は、どこに行っても結局は搾取され続ける社会全体の構造にあり、これは『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』を想起します。中国系二世・三世の貧困は『ビジランテ』、本当に外部からの企画&原作有りとは思えないほどの「入江悠作品要素全部載せ」。

 前半の下の下の下の生活から一変、ジャイアントキリングを狙う後半の楽しいクライム・アクション展開は、登場人物たちの計画同様、脚本も少し勢い任せ。MIYAVI扮する悪役の造形も一人だけ、リアリティのラインが違う世界から来たようで見心地は良くないです。
 しかしながら照れ無しで『プロジェクトA』にオマージュを捧げるその様子は、何だか入江悠作品の懐かしい泥臭さを感じました。

 何よりも痺れるラストカット。すこし現実離れした裏社会のお話が一気に我々の世界に戻り、スクリーンには我々「観客」が映り込みます。彼らの貧困は決して他人事ではないぞ、と。一見、ポップに見える『ギャングース』が突きつけるラストは、『ビジランテ』よりも鋭かったです。
茶一郎

茶一郎