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エセルとアーネスト ふたりの物語のKUBOのレビュー・感想・評価

3.9
素晴らしいアニメーションだった。

『風が吹くとき』『スノーマン』のレイモンド・ブリックスが、彼の父母の人生を描いたグラフィックノベルの映画化。

94分の全編に渡って、どこを切っても素晴らしい、宝物のような「絵」だ。CGや、実写から起こしたであろう部分も含めて、丁寧に手描き処理を施して、まさに絵本が滑らかに動いてる感じ。

物語は、日本で言えばほぼ昭和の時代。第二次世界大戦を挟んだ、カップルが巡り合い、家族を作り、共に天国に召されるまでを、優しく、ゆったりと描いている。

前半は、いわばイギリス版『この世界の片隅で』。『チャーチル』や『ダンケルク』の時代だが、この夫婦は、悪いこともせず、取り立てて目立ったこともしない、市井の人。だからこそ、すずさんたちとかぶるのだが、疎開やら、防空壕やら、空襲やら、規模こそ違えど、どこも同じだったんだなぁ、と。もちろん、右手とクマさんのぬいぐるみでは比較にはならないが。

後半は『三丁目の夕日』かな? 戦後、冷蔵庫、電話、テレビ、自家用車と、少しずつ家庭内に入ってくる今では当たり前のものたちに、驚き、喜び、笑顔を取り戻していく様は日本と同じだ。

この2人には、何か特別なことは何も起きない。この時代、どの家庭でも起こったようなごくごく普通の人生を丁寧に描いている。だから若い人には只々退屈かもしれないが、この時代を通ってきた人たちには『フォレスト・ガンプ』のように自己を投影して泣けるんじゃないかな?

戦後に生まれた私にも、妻と巡り合い、子を育て、長い年月働いた後、夫婦共に穏やかに息を引き取るまでを優しい目で描ききった本作のラストにはうるっときた。

特にエンドロールの主題歌がポール・マッカートニーだなんて知らないで見たから余計にね。我々の世代にはポールの歌声は特別なんだ。

劇中、アーネストとエセルがラジオから流れる広島への原爆投下のニュースを遠く離れた国のこととして聞くシーンがあるが、『風が吹くとき』の夫婦はこの2人がモデルである。
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