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エセルとアーネスト ふたりの物語のkakkoのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

この世界の片隅に生きる普通の人々
 〜『エセルとアーネストーふたりの物語』(@岩波ホール)

 『スノーマン』『風が吹くとき』などで知られる絵本作家レイモンド・ブリッグスの両親の物語。1920年代に結婚し1971年に亡くなるまで、ロンドンの片隅でのささやかな生活と戦争を挟んだ時代が、あの優しい色彩とあたたかい筆致で淡々と描かれるアニメ作品。

 エセルが結婚前にメイドをしていた中産階級のフラットと、アーネストと結婚して手に入れる庶民のフラット。ロンドンの家や街並と、幼いレイモンドの疎開先の田園風景やハウス。丁寧に描かれる英国生活誌のディテールも興味深い。そして、日本の同時代の庶民史にもぴったり重なる。原爆を落として勝った連合国側でも敗戦国日本でも戦争に翻弄されるのは庶民で、本質的に同じだ。

 『この世界の片隅で』のすずさんと周作さん、出征前に「普通じゃのう、すずは。ず~とこの世界で普通でまともでおってくれ。」と言った水原さんが思い出された。

 労働者階級からオックスブリッジを経て階級を乗り超える当時唯一のルートだったグラマースクールに、レイモンドが合格した際の親の喜びよう。結局オックスブリッジではなく、美大に進んだ時の落胆ぶり。

 普通の人々がこのようにして慎ましく生き、死んでいった。死の描写はとてもリアル。身体は消滅し、家も家財道具も売り払われるが、ふたりが生きた記憶だけが息子の胸に残る。

じ〜んわりと染みこんでくる良作だった。
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