キナ

マローボーン家の掟のキナのネタバレレビュー・内容・結末

マローボーン家の掟(2017年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

ダークファンタジーだと思っていたらホラーで、ホラーだと思っていたら、愛の塊で横っ面叩かれたような気分になる素晴らしいドラマだった。

絆なんて安っぽい言葉以上の強いもので結ばれた母親と四人兄弟の生きる道。
彼らの背景なんて何もわからないまま、冒頭に新しい家で一人ずつ線を越えるシーンで酷く心を掴まれていた。
埃まみれの床に足でツーッと線を書く仕草がとてもかっこいい。皆の覚悟の表情も好き。

アリーとの出会いのシーンがとても好き。
髑髏の目の岩に響く魔女みたいな声、なんてユニークな初対面なんだ!素敵すぎる。
ジャックと目が合った瞬間もたまらない。
この二人惹かれ合っちゃうんだろうな、とムフムフ思っていたし、後の図書館でのキスシーンは内心万々歳だった。

母の病気からだんだん狂い始める歯車に胸騒ぎがしてくる。ただひたすらに上手くいくだけでは映画にならないことなんて分かってる。
気管に穴が空いたような呼吸の音って本当に怖い。
爆発音みたいに大きな銃声とジェーンの歪んだ表情が本当に怖い。

試練が続く中で唯一失くさずに保っていた砦の中身が分かった時、大きな困惑と悲しみに襲われた。
この手のネタは使い古されていて、ストーリーや演出が相当良くないとちょっとがっかりしがちなんだけども、この作品ではとても良かったと思う。もちろん好き嫌いはあれど。

伏線は事細か。所々で家に誰もいないように見えたり、夢オチっぽくなったり、風呂場のシーンなどなど。
ここで作品の意図に気付く人も多いだろうけど、私は気付けなくて良かったと思った。

「出て行け!」と言ってしまったジャック、言われてしまったビリーの心情を考えるともう身震いしてしまう。
籠の中の鳥なんだから。
そして最後、父親にトドメを刺すのがビリーだったことにグッと来た。行動派の彼らしい。ありがとう。

選んだラストにはもう大号泣。
人の命は暴力なんかで簡単に消えてしまうようなものではない。
私も確かにジェーンとビリーとサムの声を聞いていたしその存在を体感していたので、アリーがあの悪魔みたいな父親にそれを大きく代弁してくれて本当に嬉しかった。

アリーが真実を知ってなお受け入れてくれたことに大きく感謝。本当に本当にありがとう。
多重人格ではなく、砦に逃げ込み線を越えたことで、魂はジャックの体を借りて生き続けているんだと思っている。
ラストシーン、こちらに向かってくる3人を見て心底ホッとした。

一瞬、サムはジェーンの子供なんじゃないかと思ってしまったよ。
でもジェーンは年齢的に10代後半だろうし、サムは3〜5歳くらい?流石に無いか。無いといいな。嫌だ嫌だ。
でも「サムの母になりなさい」って言ったあの言葉って、それ以上の意味もそのままの意味も含んでいそうだなと。うーん嫌だ嫌だ。

アクセントのように入るホラー演出も良かった。
私はこういう、焦らされて焦らされて思いっきり大きな音でガツンとやられるやつが大好き。

最近また死についてよく考えていて、私自身が死ぬことはもちろん私の大切な人が死んでしまうの考えるだけで辛くてたまらなくなる。
そういった時にこんな逃げ場があったら…と少し救われたように感じた。
みんな死なないで欲しい。いざとなったら私の身をプレイヤーとして使っていいから。
私も身体が死んだら誰かの身をプレイヤーとして使っていきたい。良い死生観だよなあ。
なんだか以前に観た舞台を思い出してしまったな。

ミア・ゴスは眉毛がない幸薄げな顔つきとハスキーヴォイスが可愛いし、アニヤ・テイラー・ジョイは眉毛がしっかりしていて目がとても大きいから一粒涙が溢れると非常に綺麗。
キナ

キナ