エミさん

ゴッズ・オウン・カントリーのエミさんのネタバレレビュー・内容・結末

4.5

このレビューはネタバレを含みます

監督初の長編映画。LGBTQ。EUにおける高齢化社会、介護問題、キツい仕事の後継者不足、過疎化する村、移民への偏見、性マイノリティーなどが表現されている。

ヨークシャー州の畜産農家。高齢の祖母と病気の父の代わりに牧場の仕事を背負わされているジョニー。出産シーズンの手伝いにやって来たルーマニア人移民のゲオルゲ。
やっぱり『ブロークバックマウンテン』を意識してしまうが、こちらは、もっと現代に近い時代の話であることで、差別意識はまだあり、周囲の厳しさは大差ないものの、マイノリティー人口が増えており、出会いも大分増えている分、幸せも掴みやすくなっていること。そして、ザラついた味のあるフィルム感が荒涼としたヨークシャーの雰囲気とマッチしてたのと、畜産の様子など特徴的な描写も、よりリアルで感情移入しやすくて、恋愛映画以上の違った興味深さもあった。

ジョニーは、仕事の憂さ晴らしに酒をあおって泥酔したり、不特定の人との一夜の関係を求めたり…と、事なかれでケンカっ早く幼稚な性格なのに対し、ゲオルゲは、寡黙で黙々と畜産の仕事をこなす。移民生活の影響で、どこか控えめに生きることを意識しているようにも見受けられる。ゲオルゲを「ジプシー」と揶揄するジョニーと、極力、耐えるゲオルゲ。見ていくうちに、2人に雲泥の差があることが分かる。どこに惹かれる要素が生まれるのだろうかと思い、つい見続けてしまう。すると、ある日、親が死産して瀕死の子ヤギを発見。ジョニーは「ほっとけ。どうせムダだ」と言うのだが、ゲオルゲが蘇生処置を施すと、何と子ヤギは息を吹き返す。その後も暖炉や自分の体温で温めて面倒を見る。それを見てジョニーは「勝手にしろ」と吐き捨てる。極め付けは、凍死で死んでしまった別の子ヤギを牧場で見つけたゲオルゲは、その子ヤギの毛皮を剥ぎ、先ほどの瀕死を乗り越えた子ヤギに、剥いだ毛皮を着せてやるのだ。そして凍死した子ヤギの母がいる柵へ入れてみると、なんと、その子ヤギはお乳を飲むのだ。強烈過ぎて「ウゲッ…」と息を飲んだ。なんて出来る男なんだろうか!!こんなシーンを見たらゲオルゲに惚れてしまうよ〜(爆笑)。スゴいシーンだな…と思ってしまった。
観終わっても、このシーンが忘れられず、トラウマ級に脳裏に残ってしまった。剥ぐシーンっていうリアルさより、慣れた感覚で世話をするゲオルゲの生き様の方に。人生の過酷さを勝手に想像して、愛を与えたいと思ってしまいました(爆死)。個人的には『ブロークバック〜』よりも、こちらの方が地味なんですけど好きです。
これ、レインボーリール的に必ず伝説になると言っていい作品です。見終わった後は、きっと沢山の人と「この気持ちを共有したい!」ってムズムズしちゃうと思います。