ひば

ゴッズ・オウン・カントリーのひばのレビュー・感想・評価

4.5
配給会社が決まらずファンの力によって数日のみ公開、配給会社がなければ円盤化も不可ということで、こりゃ無理ですわと諦めていたところ奇跡の甦りによって人権を手に入れ復活!目に入ることなく人生を終えると思っていたので嬉しいと呟いたら公式が🖤くれた。わかる。
情報量が少ない映画を好む傾向にあるのですごく好きでした。削ぎに削ぎまくっていた。情報量が少ないっていうのは、台詞が少ないとか撮される場所の範囲が狭いとか音楽が数種類しか流れないとかある限定された表現が他の表現を凌駕するという物語を語る圧倒さで勝負してくるのがすごく好きなんですよね。この映画は自然を"癒し"ではなく"閉塞感"として、そしてあまりに大きすぎる脅威や荒波として物語を飲み込んでいる。そんな自然に翻弄されながらもその中に芽生える神秘性や人の営みを信じること。人は自らの力で変わることができるという人間の可能性を信じるという人間愛に溢れた作品となっていました。最近の作品だから『君の名前で僕を呼んで』と比べられたりするんでしょうがあの映画は文学を扱い引用しており、自然が人を静かに優しく包み込むというわりと本作とは真逆の位置にある気がする。富裕層の話だしね。環境的には『ブロークバックマウンテン』が近いけど、あっちは外界の圧力と女性の存在が負を引き寄せる存在にもなっていたのでやはり違う気がする。『ハートストーン』じゃないですかね、比べるなら。うーんでもそれも違うかな、同性愛だろうがたいして誰も気にしてないし問題は移民という目線だったかな。ゲオルゲにもその場に留まることはできないという悲しみで穴が開き、空虚さが付き纏っている。
尖った石のぶつかり合いか?どこで感情が動いたのかさっぱりわからんと思いつつもそこで終わるのではなく二人が特別な関係になれたのは、ゲオルゲが人に触れ愛に触れるという性処理ではなく人の慈しみを教えてくれたからなんだろうなぁ。環境が大幅に変わる訳じゃない、だけどインスタントラーメンがパスタに変わっただけで世界は変わるんですよ。
これが、これがあの…クソデカビッグ感情というやつだ…泣いてしまった、手を誘導する場面だけでトキメキが止まらないよ…ジョニーはあのシンプルな言葉をひねり出すだけにどれだけの時間がかかったのだろう。感情を抑圧し日々の薄暗い生死の輪廻に抗うことを諦めていたジョニーの瞳が輝き、ふざけ、笑顔が愛おしい。生命の循環の輪の中で息をしている。生きている。
LGBT作品でほぼ避けては通れない、愛を得るためには何かを捨てなければならないという天秤が存在しなかったのもすごく良かった。時代の変遷ですよね。辛いんですよあれ。生活を失ったり家族が悪役になったり…でも、愛のために犠牲になるものなどない、失う必然性などない、世界に見捨てられ孤独になる必要などない。皆で手を取り合って生きていくのだという着地はこれからたくさんの人に希望と安心感を与えるんじゃないかな。
エンドロールの音楽が曲自体めちゃくちゃ脳に響くのもあるんだけど、ワルツ調だったのが良かったな。


この作品は良い宣伝のされ方で好印象です。個人の感想なら別に気にならないですけど、LGBT作品を公式が"禁断の~"という謳い文句はなくなってきましたが、"愛に性別は関係ない"とか"性別を超えた愛"とかいうのどうなのって思うので。そんな自然ではありえない間違って起こった、みたいな風に聞こえるじゃん。LGBTにあたる人たちがようやく"これは私の物語だ"と寄り添う作品ができたと思ったら『いいえ違います、これは人間の物語なのです』と剥奪してるんですよ。性別を越えた神の如く純粋純潔なものみたいな概念がたまにどっかにあるんですよね、いやいやれっきとした恋愛だしそこにはちゃんと性欲もあるし…いや性別を超えた愛ってよく考えろそれはむしろ異性愛ではってなるので。そういうスタンスなんですね、わかりましたってなるので。『○○さんがとても色っぽくて~あっ自分はゲイじゃないです、念のため笑』みたいなのもね~~~たまに公式のレビューとかで見かけるとね、悲しくなっちゃうのでね…一体誰に言い訳をしているのか、そんな頑なに同性愛を否定しないでくれとそう思います。まだまだ道は険しいですが、それでもこういった広まりが起きるということは、確実に日本に浸透していっているのだなと感じた作品でした。もっと上映館が広まってくれたら嬉しいな。
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