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ゴッズ・オウン・カントリーのOPAのネタバレレビュー・内容・結末

4.5

このレビューはネタバレを含みます

『ブロークバック・マウンテン』meets『彼の見つめる先に』といった趣きの構図が胸に沁みた。『ブロークバック・マウンテン』で深く胸を締め付けられた者としては、この作品が『ブロークバック・マウンテン』のアンサーソングとも取れて、ようやくその苦しさが報われたような気がした。

どんな関係においても、人との関わり合いで大事なのは "導き合うこと" なんだよなって改めて感じた。導き合うことによって成長に繋がるんじゃないかなって。

若い故もあって、何事にも不器用なジョニーがゲオルゲに自然と導かれていく過程は、ジョニー演じるジョシュ・オコナーの眼の変化によって表現されていて、いつの間にか、我が子の成長を見守るような暖かくもハラハラした気持ちで観ていた気がする。

【2回目鑑賞追記】

やはり2回目では1回目で気付かなかった小さなディテールにも気付くことができ、その繊細な演出に初監督作とは思えないフランシス・リー監督の才能に脱帽。

改めて観ると、ガス・ヴァン・サント監督の『グッド・ウィル・ハンティング』の側面もあるなーと感じた。常に厳しかった父から「You done good(よくやった)」「Thank you(すまんな)」と認めてもらえたことによる、ジョニーの強い自己否定感からの解放。『グッド…』では、それまで堪えてきた自責の念を「I’m sorry」と吐き出し、それを「It’s not your fault(君のせいじゃない)」と抱きしめる。人には誰にだって弱い面もあれば、認めて欲しいという承認欲求がある。それを見せられずに強がるしかなかった辛さ、携帯も繋がらない環境でSNSを使っての承認欲求さえも満たせない。そんな中で常に独りで会話も通じない動物相手に牧場を切り盛らなくてはならない。それも全て、年老いた祖母、病気の父の為と頑張ってきたジョニーの姿を最低だとか、ダメ男と言い切ってしまうことに違和感を抱かざるを得ない(レビューを見ると、そんな声も多い)。そんな風に突き放してしまうと、ジョニーは益々孤独になってしまうだけ。そんなジョニーの側面は誰にだってあるはず。だからこそ、ゲオルゲを追いかけ、「I want you come back, with me」「I don’t want to fucked up anymore」と溢れる涙を堪えながらも、静かに流すジョニーの一雫の涙は、他の何にも変えがたい、ジョニー自身の成長の証と捉え、一緒に抱きしめてあげたいと思うわけです。

一度は離れたゲオルゲと共にヨークシャーへ戻り、ゲオルゲの寝床としてたキャビンカーを売り払った様子から、一緒に家に入る2人の姿で映画は終わる。その後の2人をどうしても妄想したくて見つけた写真(3枚目)の幸せそうな2人の笑顔に「ジョニー、良かったね」と声をかけたくなってる自分がキモいw

2/10と2/11の上映前にはゲオルゲ役のアレックス・セカレアヌからのメッセージ上映があり、入場者プレゼントとしてジョニーのポストカードもゲット。パンフレットに付いていたクリアファイルの両面は互いが抱きしめ合ってるようになってる小憎い仕様でかなり満足。

もうどうしようもないくらいに余韻が抜けなくて、一度ハマると同じネタが続く傾向をお許しくださいまし。…ということで…、


【さらに追記。ネタバレも甚だしく、自分勝手で自己満足極まりない考察をしてみた】

①石垣
長いこと欠けていた石垣こそジョニーの成長とリンクしていて、ゲオルゲと石垣を挟んで修理していることこそが関係性としての距離感、拒絶感を表し、距離感が縮まっていく中で物言わずどこかへ向かうゲオルゲを追いかける時、ジョニーは石垣を越える。その瞬間にジョニーは自分の心の中の石垣も超えられたんじゃないかと。(この石垣考察はトモくんからの示しで気付いて鳥肌たった次第)

②音楽
ジョニーの心が閉ざしている序盤では音楽は鳴らず、吹く風などの自然音のみ。ジョニーの心が開いていくにつれて音楽が流れるようになる中盤以降のその効果は絶大。

③色彩と天気
序盤は曇天が続く中で紺色のモノクロとも取れる暗い色味だったのが、ジョニーの心情の変化に合わせて、空の遠くに晴れ間が覗くようになり、やがて花が咲き、完全な晴天が訪れ、緑の溢れた草木がジョニーを包む。

④街の人々
小さな街だけに差別意識がありつつも、そこに住む人々の素性については暗黙の了解があったのかと。ジョニーの性的嗜好も実は知っていて、後半のバーのシークエンスでカウンターにいたオッチャンがゲオルゲにビールをピシャピシャと指先で飛ばしていたのは、事前にジョニーとの会話(一緒に牧場をやらないかとのジョニーの誘い)を聞いてたこともあり、ジョニーがトイレに行き、若い男子が追いかけてトイレに入っていったことを「何をボーっとしてるんだ、早くトイレに行って止めて来い」と知らせていたのかなと。

⑤キス
行きずりの相手ともゲオルゲと初めて求め合った時も、手を繋ぐこともキスも拒んだジョニー。まさに心を開けない(開きたくない)心情の表れで、のちにゲオルゲと恐る恐るキスをする。そこで初めてジョニーが他者に対して心を開くことが出来た瞬間でもあったのかと思えば、ただのキスにとどまらない深さを感じることができる。

⑥手
手の平に傷を負ったジョニーの手を握り、傷をいたわり撫でるゲオルゲ。それをきっかけに他者の温かみを感じ始めるジョニー。父親が入院した先の病院の食堂で不安がるジョニーの手を指先で撫でるゲオルゲ。その後の病室で同じように父の手に触れるジョニー。手を通じての心情表現。

⑦子羊
子羊こそ実はジョニーなんじゃないかなと。仮死状態で生まれてくるくる子羊は、それまでに感情を持てずに過ごしてきた(生気のない目をした)ジョニーで、そんな子羊の身体をさすったり、人工呼吸をしながら蘇生させて、ミルクを飲ませたり、時に抱きながら面倒をみるゲオルゲ。まさにゲオルゲの存在で愛を知り、キス(ゲオルゲの人工呼吸)が出来るようになり成長していくジョニー。死産で生まれた子羊もまたジョニーなんだけど、剥いだ毛皮を別の子羊に着せることで母羊のもとによって自らミルクを飲めるようになる。ジョニーの真の独立や成長過程とリンクしているんじゃないかっていう考察。
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