平野レミゼラブル

武蔵-むさし-の平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

武蔵-むさし-(2019年製作の映画)
3.1
史実に準じたリアルな宮本武蔵を描くと言う触れ込みの令和最初の武蔵映画。実際、後年の講談や映画で若い美男子として描かれることが多かった佐々木小次郎を、近年の50〜60歳くらいという研究に合わせて松平健をキャスティングするなど気合が入ってる時代劇なんですが……あっあーこういう時代劇ね…って感じにイマイチ盛り上がりに欠ける真面目が過ぎる造りに……
音楽は三味線オンリー、剣なんて木刀だろうと一撃当たれば即死レベルでしょと即ケリが着くという強気な造りではありますが、こうも徹底されると中々評価が難しくなる。いやまあ武蔵モノの最大の弱点として巌流島が一撃でケリが着くためイマイチ盛り上がれないとはいえ…これは……

また、会話も重厚な間がある重々しさのようで
「○○があるからな……」
「なんと…○○……!かの徳川将軍家でなんたらかんたらな○○が……!!」
のような説明口調だったりなのでいまいちテンポが良くない。冒頭のナレーションからして足利将軍家の説明から入ったり説明が過ぎる部分も。

武蔵の描き方に関しては、強いは強いが精神は「成り上がりてェ…」って野心があるだけの普通の若者のため、強さにメンタルが追いつかないという描かれ方。人斬り殺して動揺して叫ぶ武蔵はじめて見たよ……
特に武蔵の未熟さが顕著だったのが、吉岡一門戦。なんか知らん内に吉岡一門がメンツ的に引けなくなって結果的に武蔵が「もうこの辺にしとこうぜ…」って引き気味になってたのはこれ史実に即したと言っていいのか微妙なところ。幼い亦七郎を乱戦の中にうっかり斬り殺した後、うわあああって叫びながら吉岡一門斬り殺していく武蔵は剣豪というより強い通り魔だよ!!!
宍戸さんも鎖鎌持った謎の通り魔になっていたり(史料でも吉岡一門や宝蔵院のビッグネームを冠した強敵の中にしれっといる癖に下の名前もよくわからない存在とはいえ)「史実に即した」って別にそういうことじゃない気が…って部分も散見したり。
強さから政治に移り変わる世に逆行する武蔵と小次郎の悲哀とか、精神的に落ち着いて不殺最強の境地に至った武蔵にとって皮肉な結果となる巌流島など面白い描かれ方もされてはいるんですが……
現代解釈の武蔵としてはインパクトが薄く、時代劇復権を狙うにはパワー不足な印象。