カルダモン

バイスのカルダモンのレビュー・感想・評価

バイス(2018年製作の映画)
4.2
'01〜'09年ブッシュ政権時の副大統領ディック・チェイニーにスポットを当てた映画。副大統領という影の存在でありながら史上最強、史上最悪と呼ばれるほどの影響力を持つに至った背景と人物が描かれる。

最高でした。クリスチャン・ベイルの役作りと言う名の人体改造は驚くやら呆れるやらで、見事にディック・チェイニーを再現していて素直にすごいんだけど、他のキャスティングもたまらない味の濃さで笑う。特にブッシュを演じるサム・ロックウェルがいい感じにバカで好きでした。

監督のアダム・マッケイは元々サタデーナイトライブなどの番組を手がけていたお笑い畑の人間で、全編を通してコメディ要素がピリピリと効いています。
レストランでメニューを語る体で法律の拡大解釈を次々とオススメする演出や、唐突にシェイクスピア劇の調子になったり、ギャグセンスが高すぎる。ちょいちょい差し込まれるメタ要素も嫌味にならないバランスで、他国の政治劇というハードルの高さを感じさせず、誰にでもオススメできる映画になっていると思います。


中盤、国防長官をやめて地元ワイオミングに引っ込むあたり陰りがあって好きでした。第一の人生終了みたいに一旦エンドロール流れてね。地元でのんびり釣りをしたり、エイミーアダムス演じる妻が家庭を牛耳ってる感じもよかったな。ブッシュを陰で操ってた男をさらに陰で操る妻という構図。また、心臓に持病を抱えるチェイニーは最終的に心臓移植を受けるのだけど、自分のハートを失って人のハートを奪う皮肉が強烈。

それにしても当人がバリバリ存命中にも関わらずお構いなしにこういう映画を作れてしまうアメリカってやっぱり凄い。いや、日本の映画制作の堅苦しさが異常なのか。
視野の広さと角度でもって物事を浮き彫りにする映画作品。笑いやユーモアは政治との戦い方として実に有効だし、心に届く。


大統領の決定は全て合法!
王様の言うことは絶対!!

そんなのは政治じゃない。
原題の〈vice=副〉は〈vice president=副大統領〉という意味の他に〈悪〉の意味も含むのだそうな。なんと気の利いたタイトル。ハマりすぎ。
『バイス2』撮ってくれないかな。マイク・ペンスやカマラ・ハリスなど他の人物もこの映画のテイストで観たくなってしまった。