ジョージ・W・ブッシュ大統領の元で副大統領を務め、陰の大統領とまで噂されたディック・チェイニー(クリスチャン・ベール)の生き様を描いた作品。
コメディ出身のアダム・マッケイが製作した政治映画ということで、題材とは裏腹に堅苦しくないポップな演出で見やすい作品。そもそもコメディとは言え『俺たちニュースキャスター』では男女差別、『アザーガイズ』では大企業のもたらした金融危機など、社会問題を扱うのが好きな監督のようで(『俺たちステップブラザーズ』は……いわゆる子供部屋おじさんの話と考えたら社会問題かもしれない)、今作ではそこがストレートに表れている。
比喩表現がそのまんま映像として出てきたりする辺り、まず分かりやすく観客に伝えるというところが第一に考えられているのが親切だが、気が利きすぎててそこまでやらなくてもいいな、と思ってしまうところがあったかも。
ブッシュの裏にチェイニーが居て、さらにその裏には彼を焚き付けるリン(エイミー・アダムス)という妻がおり……というところが明らかになっていくのは面白いんだけど、チェイニーがいかにして妻の言う通り政治家になろうとしたのか?というところだけがすっぽ抜けてしまっている感じがある。大学の授業すらすっぽかす不真面目男がいつの間に政治家を騙くらかすような処世術を身につけたのか?というのが不明瞭で、何となく掴みきれなかった。それが妻の指導の賜物なのであれば、いっそ主軸をそっちに置いた方が面白かったんじゃないか?という気がした。
クリスチャン・ベイルの肉体改造術はやっぱり流石で、完全に本人のオーラを消し去ってチェイニーという男になりきっていた。若い頃の老けメイク無しの状態だと、ジョン・ファブローにソックリなのがなんか面白かった。顔だけなら最早ジョン・ファブローならわざわざ太らなくてもやれたのかも。
政治という混み行った題材を噛み砕いて見せてくれるという試みは面白いんだけど、政治なんて本来グロテスクなものであるはずで、今作でもそこら辺は垣間見えるんだけど、もっと明け透けに描いたヤバいものが見てみたかった……という邪な気持ちがあり、そこまでは楽しめなかったかも。
自分も保守的な考えはあまり好きでないのでアレだが、ハリウッド映画ってどうしてもリベラル目線に偏りがちなので、そこら辺フラットに暗部を描くような映画も観てみたいな。
(2021.159)