140字プロレス鶴見辰吾ジラ

バイスの140字プロレス鶴見辰吾ジラのレビュー・感想・評価

バイス(2018年製作の映画)
4.3
【おにぎり2800個以上の…】

イラク戦争の黒幕=ディック・チェイニー副大統領。
それを支えた妻=リン・チェイニー。
映画監督=アダム・マッケイ。

マジ、アッパレ!
クソ面白い!!
みんなそっくりさんで
米国政治家版の
プロ野球スピリッツや
ウイニングイレブンを
プレイしてるみたいだった。

本作はとにかくテンポが良いし、笑いどころが随所にありつつも、明らかに笑えなくなるブラックジョークが満載。それをクリスチャン・ベールの肉体危険水域の体重増減+特殊メイク、サム・ロックウェルのあまりに本格的すぎる息子ブッシュのモノマネで味付けして、とにかく刺激的な瞬間を絶やさないよう作り込まれた130分となっている。

そしてアイコンとして登場する釣りのシーン=「国民を釣る」、心臓移植後にアップで映される心臓=国の心臓部、ないし「心臓を捧げよ。」というコメディでありながらアメリカという超国家の暗黒面をストレートに映し出し、そして時折挟まれるマッケイ演出の中で、一般市民層の会話の意識高いヤツ=リベラリスト、馬鹿な連中=トランプ支持者、無関心者=ワイルドスピードと、アメリカという国を動かす人間の驚異性と国民の不勉強の脅威が突きつけられる仕組みなのも面白い。

ちょうど小学生から中学生に私が上がるタイミングで起きた9・11のテロをチャンスとして暗躍したチェイニー副大統領は連日のニュースで名前は知っていたが、2003年のイラク戦争において、アフガニスタン→イラクへの攻撃対象の変動に???だったあの頃の解答が、喜劇ながらゾッとする現実で進められていたことを改めて痛感させられたし、無知だったあの頃は「そーゆうものなのか~」と思ってしまったことを考えると、本作は知識人には常識でもそれを見えていない人たちに権力へ疑問や反論をすることを、それこそイソップ童話のようなデフォルメをして伝えてみたり、笑いながら笑えなくする悪意ある警鐘モノとして見事な出来栄えと感じた。

そしてさらにゾッとするのが、チェイニーの嫁さん。この人は、内助の功ガチ勢。冒頭の退屈なチェイニーの生い立ちシーンかと思いきや、エイミー・アダムス演じるこの女の喝入れがすべての元凶で、女性だから当時は報われなかったというコンプレックス剥き出しで、夫を政治界のキリングマシーンに支えるという立場から仕立て上げていく様が痛快で怖ろしい。代わりに選挙演説に立って保守派におべっか使いまくるシーンや、娘がレズだと分かったときに、夫は気にするなと抱き寄せるのに、「あ、これ政治的に面倒な奴やん…」と怪訝な表情を見せるシーン含め、妻の破壊力は凄まじいものが後々発露していくわけである。その分、父ブッシュとのパーティのシーンの確信勝利の演出にグッとくるわけで…

拡大解釈を武器に屁理屈ガチ勢としてのし上がった夫チェイニーと、コンプレックスの矛先を内助の功にガチった妻、そして当時関係していた政治家や利権関係の驚異と脅威を本人ご存命でありながら、茶化して煽り、そして問いかける映画「バイス」。トランプの臨むアメリカファースト含め、政治のカラクリの恐ろしさ、あなたのハート(心臓だか晋三だか)には何が残るでしょうか?