まりぃくりすてぃ

カトマンズの約束のまりぃくりすてぃのレビュー・感想・評価

カトマンズの約束(2017年製作の映画)
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[渋谷ユーロライブ ネパール三本立ての全作に泣けちゃった③]

「2015年大震災に遭ったネパールの復興支援と日ネ友好のために、伊藤敏朗監督が私財(大学からの退職金全部?)つぎ込んでこれ作った」────なんて前情報聞いたから、点なんてつけられない。。。

自主ながら大作。『シンゴジラ』と互角かどうかは何ともだけど堂々の127分。俗臭しないでもないポスター見てフッと不安になった人にはその不安的中なオイオイチョット作だし、逆に復興支援映画という文言に真摯さを読みとった人には裏切らなさ(!)が爽やかな後味として返る。
私は今回、伊藤監督のネパール第一作(この映画の序章。農村の子供たちを美しく愛おしく描く“愛されファンタジー”。少年ラメスと妖精少女ニサが主人公)と第二作(崇高さがちょっとある文芸映画)を既に心の貯金にしてこの最新第三作と向き合ったため、やや高かったはずの作家性とエンタメ色との落差を柔軟に受け止めんとするもやっぱり戸惑いを処理しきるのに時間がかかった(というか作品消化に結局127分かかった 笑)。ずっと前に夢中になった中丸雄一主演のシャキシャキTBSドラマ『RESCUE』との差も埋まりづらかったぁ。。
ともかくも、伊藤作品のレギュラーFWであるガネス・マン・ラマ(役名ラメスで来たか)のカッコよさは、くだんの『カタプタリ』『カトマンズに散る花』を経て今作でこそ、最高。彼は若返りつつある俳優?
そして、“柴咲コウの妹がデビューしたの?”感がポスターにはあったがスクリーン内では完全に濃いばかりのネパールネパールorインドインドな(ニサで来たかの)シタル・スレスタ。それから麻衣チャン役の水谷りぼん。この二人の女子力に私たちが困らされちゃう、“マサラ・ムーヴィー” 兼 “若向けB級っぽ邦画” でもある。私は序盤で「♪やんちゃなお年頃 ハイレハイレ」と踊るニサをぶっ殺したくなり、中盤からは断続的に麻衣チャンのキャラに善くも悪しくも引きずり回された。やじゃない観客も一定数いたんだろうけどね。。
じつのところは、ボリウッドと同じ“歌って踊って恋して戦って”のマサラである以前に、もうちょっと実直な意味で総花的な映画なんだよね。総花的ゆえに迷走気味な(しかもマサラとしても弱い)んだが、カラッと総花的だからこそ他の追随を簡単には許さない“異色作”性が高かったりする。
具体的には、震災に不倫ドラマをねじ込んじゃってて、そのくせプラトニックを利用して逆に爽やかで人道的なオチをつけるという荒技に、最後は納得させられちゃう。敵がいない物語の中にもいろんな起伏が(越えるべきコブとして)連ねられてたのも確か。ただし、その縫い目は大抵ハッキリしすぎてる。
というわけで、三本立てのうち、最も出来の悪いのがこの作品なのに、最も泣けたのがこれ。終盤で。退職金のこと思いながら。おそるべき退職金パワー!

最後に、今回の伊藤監督三本立てへの私の好意の理由を書き足す。
まだ小さくて、ハリウッドやジブリや『七人の侍』ぐらいしか映画文化を知らなかった頃の私が、ひょんなことからイランのアッバス・キアロスタミ監督の“ジグザグ三部作”に出会った。彼の出世作『友だちのうちはどこ?』のロケ地でその後大地震が起きて、世界を魅了したあの子役たちが無事かどうか心配したキアロスタミがその村を見舞いに行ってドキュメンタリー的に二作目『そして人生は続く』が撮られ、当の二作目に新婚夫婦役で脇役出演した男女が実際には片思いする男性とつれない女性だと聞いたために、さらにその二人を主役にして『オリーブの林をぬけて』を撮った────という味わい深い経緯を私は忘れてないから。
伊藤監督のネパールでの出世作『カタプタリ』の子供たちと田舎風景。そして首都カトマンズの成人男女のうまくいかない恋愛を一種高尚に描いた『カトマンズに散る花』、それらの美しい場所場所が大地震で壊れたのを受けて今回の映画が『カタプタリ』の続編へと姿を定めたこと。主演男優は全部同一で、そのガネスさんには日本への友情も一杯。
映画とは、つまるところ愛だ。愛には人は反応したくなる。

(日本人は登山地として以外にはネパールにあまり関心持たないけれど、本作はネパールでは昨暮公開されるや大ヒット。同時期の『スターウォーズ』に圧勝したらしい。。。。。。)