微睡

生きてるだけで、愛。の微睡のレビュー・感想・評価

生きてるだけで、愛。(2018年製作の映画)
5.0
「生きてるだけで、ほんと疲れる」。寧子の言葉は所謂「かったるい」という感覚とは違う。他人に見透かされているような感覚に怯え、感情をコントロールできずに振り回される自分が情けなくて、苛立たしく、それ故将来の不安に押しつぶされそうになりながら、膨大なエネルギーを消費して生きている。気力がないのではなく、無駄なエネルギーを使いすぎて疲れてしまうのだ。
たとえばあの、まるで台詞のような喋り方。うまくリラックスできず肩に力が入ってしまっている、不器用な生き方そのもの。
小さな不運が重なってパニックになるシーンの生々しさには、涙が止まらなくなった。追い詰められている時って、些細なきっかけで全部崩れる。ひき肉がないと、玉ねぎがないと、ハンバーグつくれない。買い物さえ満足にできないわたしがこれからどうして生きていけばいいの?って。普通に考えれば、話が飛躍しすぎているのだけれど、これぞ鬱。とてもリアルだった。
原作よりも、津奈木の印象が強い。エネルギーを使いすぎる寧子と対象的に、省エネで生きる男。この受け流しスタイルは、不本意ながら他人の不幸を食い物にする仕事をしている彼の防衛本能から来たものだと思う。対象に感情移入すると、自分が傷つくから。つまり、彼のドライに見える態度は、彼の愛情深さや優しさに起因する。
これだけ対象的なふたりが3年間も一緒に暮らしてた。「なりゆき」だと言ったけど、きっと津奈木は寧子のエモーショナルな生き方に惚れていたんだろう。エキセントリックな部分に面白みを感じたのではなく、エモーションだと思う。彼は「スカートが綺麗で」と言ったから。
彼らが分かり合えたのは一瞬かもしれない。けれど、その1/5000秒に生きる意味がある。
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