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生きてるだけで、愛。のはるのレビュー・感想・評価

生きてるだけで、愛。(2018年製作の映画)
4.0
人間ってのはなんでこう面倒な生き物なのか。それは他人を見ていても自分に対しても思う。いっそのことウミウシあたりに生まれていたらゆらゆらと過ごせて楽だろうか。いや、ウミウシにだって悩みがあるだろうし、きっと何に生まれたとて面倒くさい事には変わりないだろう。
主人公の寧子はいわゆる躁鬱である。自らの感情を上手くコントロールできない。そしてその寧子の恋人である津奈木。彼の場合は自らを殺し全く本望ではない仕事を繰り返してきたせいで魂が疲弊しきってしまっている。
寧子のような状態には少なからず共感できるので観ていて居心地は良いものでは無かった。寧子と安堂のやりとりから分かるように寧子ような人間は正しく社会生活を送る人間を本当に尊敬しているし、自分もそうなりたいと強く思っている。しかし、自分の思っているように立ち振る舞えない。大抵の人間なら器用にやり過ごす事にも人一倍の体力が必要である。だから劇中寧子が何度も言うように「疲れる」のだ。そして何故自分はこんな事も出来ないのだろうかと考えるようになり、益々堕ちていく。
一方、津奈木。前半は微力ながらも寧子を支え、仕事もそれなりにこなしてゆく。しかし、仕事への憤りが膨らむに連れ寧子との関係も悪くなっていく。自分を捨て仕事に打ち込むという状態は、自分自身に興味が向かない状態なのだ。だから寧子の話を聞く余裕がない。寧子がバイトを始めたという話題にも驚くほどそっけない。自分に興味のない人間が他人に興味があるわけないのだ。
そんなすれ違い続ける2人がラストシーンではほんの一瞬分かり合える。それは偶然同じタイミングで同じアクションを起こしていたから。自らをさらけ出した2人はようやく本音でぶつかる事ができたんでしょう。
主演の趣里さんは大変な役を頑張っていましたし、安心して観られるいつもの菅田将暉と役者の演技が良かったです。田中哲司らが心身ともに健康な人間を真っ当に演じ切ったおかげで主演が際立ったとも思います。仲里依紗が登場するシーンは笑いどころもあって良いエッセンスになっていました。原作も読んでみたいと思いました。
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