櫻

あなたはわたしじゃないの櫻のレビュー・感想・評価

あなたはわたしじゃない(2018年製作の映画)
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あなたはわたしじゃないけれど、わたしはあなたの中にいたことがあるようだった。そこにいるあなたはねえ誰なの。わたしはいつの間にかあなたを見て真似事をし、習って演技をして、ずっとついていった。あなたはあなたであり、いつからか母だった。それだけのことだ。輪郭の溶けた記憶の中のあなたは、どこまでも手が届かない。過去はもう夢のように遠くに落としてきたものだから、わたしはただ歩き続けた。時々届く馬からの手紙。その姿をわたしは見ぬままずっと遠くにいくつもり。型にはめてしまえば窮屈で、自由のままだと寂しくて、理想を掲げたら光を失って苦しい。だけどいつかは終焉がくる。わたしが見たのは暗くて黒い光。あなたは影を無くしたのよ、と耳元で聞こえた。あなたはわたしじゃない。遠くのそこは何もなくて、やわらかくてあたたかい。どこでもないのによく知っている場所。どうやらわたし還ってきたの。
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