カツマ

父、帰るのカツマのレビュー・感想・評価

父、帰る(2003年製作の映画)
3.8
あんなにたくさん撮っていたのに、12年ぶりに帰ってきた父親の写真は一枚も無かった。雨音が鳴り響くエンドロールは、うらぶれた波打ち際のように寂しい音色を地面へと落とし続ける。愛し方が分からなかった父親と、突如反抗期に放り込まれた息子。複雑な心情は絡み合い、合成写真のような青すぎる空との対比は儚く美しかった。
アンドレイ・ズビャギンツェフの名を世界に知らしめた衝撃の長編デビュー作。最初期からこの監督は景色を透明に近づけるような、美しい描写力を持っていた。そしてその景色の美しさと反比例して、現実の重みは容赦なく、こんなにも世は不条理に満ちていた。

兄弟のもとに12年間音信不通だった父親が突然帰ってきた。兄のアンドレイは父親をパパと呼び好意的に接していたが、弟のイワンは本当に父親なのかどうかも訝るほどに警戒心を隠さなかった。それもそのはず、兄弟は父親の顔を知らず、何故彼が出ていったのかも聞いていなかった。
そんな父との3人での旅行は不安だらけだったが、兄弟は釣りをすることを楽しみに、目的地の滝へと車は進んでいった。
父親は道中電話ボックスで何事か話していたり、兄弟に冷たく当たったりと、その行動は何やら不可思議で、次第に弟のイワンは父親へと真っ向から反抗し始めるのであった。

この映画はロシア映画である。かのタルコフスキー作品やあの『不思議惑星キンザザ』がそうであったように、自国への警告めいたメッセージを内包している可能性もある。しかし、それ以上に感じさせるのは宗教的な寓意性である。父親をキリスト(神)、兄弟を信者と例えると色々な事象の辻褄がピタリと合う部分もある。

これらはあくまで推測の域を出ない。個人的には子ども達に不器用に接し続けた父親の物語として見ていたい。高いところから飛べなかった少年の、少しの成長を見ていたかった。
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