チーズマン

パンク侍、斬られて候のチーズマンのレビュー・感想・評価

パンク侍、斬られて候(2018年製作の映画)
3.7
役者が豪華とか、派手な時代劇ミュージカルみたいなものを期待して観に来た観客はポカーンだろうなあ…。
あのカオスっぷりに。


意図して強調された現代言葉遣いとノリの軽さから感情移入し易そうに見えて実はそう簡単に感情移入出来ない作品。
風刺は鏡となるし、なにせ唯一感情移入が出来るのが他のどの人間でもなく、“猿”(そこが重要だったりもする)だからね。笑
その上、ストーリーもほとんど無いようなものだから、好き嫌いが分かれる作品だとは思う。


初めはぬるま湯で、温度が少しずつ上がっていき、ついには沸騰して蒸気が立ち昇るような映画。
そのなんだか分からない“何かが確実に上がっていってる感”を楽しめることが出来たなら終盤はもう観客のもんだと思う。

なにげに、ぬるま湯の前半も結構好きだった。
平時における、それぞれの立場や場所で取繕われていたり疑問も持たず固定化されたものなどが示される大事なパートだしね、前半は。
それが後半の無秩序な狂乱の渦の中で次々とひっくり返っていくのが醍醐味で、もちろんこの作品の中の1番にして最大の欺瞞もきっちりと。

ちなみに個人的には東出昌大の演じる頑固なまでに正論しか言わない殿様が最高だった。
平時にはその正論がそれなりの威厳を伴って聞こえるが、異常事態の時でもそれだからもはや狂ってる。
こういった柔軟性ゼロの人間が組織のトップだと大変だろうなあと、ひしひしと思った。


町田康の原作小説を宮藤官九郎が脚本にして石井岳龍が監督で映画化となると、もしかしたら想像を超えた何かが観れるかもしれないと期待して観終わって、さてどうだったか。
現代のパンクを見せてやる!というこの作品の熱量が全て結局は「Anarchy in the U.K」に内包されちゃって、逆なぞりにピストルズやっぱすげえなあってところに落ち着いた…って、あれ?それでいいの?笑

つまり楽しかったけど、何か想像の向こう側までは到達しなかったという感じだろうか、まあ個人的な感覚の話かもしれないけどね。
チーズマン

チーズマン