セッキー

カツベン!のセッキーのレビュー・感想・評価

カツベン!(2019年製作の映画)
4.2
公開3日目の日曜の朝に見てきましたが、僕の行った映画館は少し田舎ということもあり、ガラガラでしたが、扱っている題材がサイレント映画(無声映画)時代の話で、周防監督作品ということもあり、客層が映画に詳しそうな年配の方ばかりでした。


僕的には、もちろん大好きな周防監督作品ということがありますが、やはり観に行った一番の動機は今乗りに乗っている成田凌君見たさです。

(といっても、成田君を意識しだしたのは『愛がなんだ』からのにわかですが…)

そんな感じで、絶対に外れは無いだろうという確信のもと劇場に足を運びましたが、僕的に期待を上回る大満足の作品でした。


本作では日本しかない活動弁士という文化が描かれていますが、正直全く知識がありませんでした。そんな僕にでもこの所謂カツベンがどのように一般大衆に受け入れられ、楽しまれてきたかということが、この映画を見てありありと分かりましたね。

カツベンとは活動写真(サイレント映画)にセリフとナレーションを当てる弁士のことですが、このセリフやナレーションが活弁士によって変わってくるというのが特徴です。

えっ?と思うかもしれませんが、
セリフもナレーションも、画面にあった話なら何にでも置き換えていいんです。

活弁士によっては悲恋の話もコメディになり、滑稽話もお涙頂戴頂戴の感動話になり変わります。これはまさに二次創作。

このあたりは、サイレントの時代においてセリフとナレーションが全て字幕だった、アメリカやヨーロッパの映画とは勝手が違いますね。

なので、もう映画は製作者のもとを離れ、活弁士の作品に近い状態になります。活動写真ではなく、活弁士目当てでくるお客さんが大半なんですよね。

活弁士はスターに近い存在です。

劇中で実際に活弁をしているシーンが幾度となく出てきますが、これが今の目から見ても普通に面白く、活弁士が先生と呼ばれていたことからも、当時、活弁が落語などに近い演芸だったのだということがわかります。


そんな賑わいをみせる、日本独特の活動弁士文化ですが、やはり現代の我々からすると、もう目の前にその文化の終焉が近いことが分かっているわけですよ。いわゆるトーキーの登場によって。


なんとも切ないところですが、ある劇中人物だけが、その事実に気付いているんですよ。これからは音声付きの映画の時代だって。
またその人物は活動弁士という文化を恥じているふうでもあるんですよね。

映像芸術たる映画に、勝手にセリフとナレーションをつけて意味を書き換えるなんて、とても愚劣で品のない行為だと言わんばかりです。

これは非常に面白いなと思いました。
確かにわかりやすいナレーションやセリフは作品を理解するうえで、観客の役に立ち、作品の質を高めることにつながりますが、あまりにも説明が行き過ぎると、かえって観客の想像力を奪い、奥行きのないつまらない作品にしてしまいかねません。

このあたりは、最近の邦画にありがちな、セリフで過度に説明し過ぎる不快さを思い出します。やっぱり、映画には観客にも能動的に参加させるような余白がなければ、それは表現足りえないのだと思います。

また一緒に観た妻は、映画の視覚障害者用字幕を作ることの難しさを描いた、河瀬直美の「光」を想起したようです。

言葉で人の想像力を奪わないように、何かを説明することって本当に難しいですよね。


でもやっぱり、活動弁士は日本にしかなかった素晴らしい文化であることは否定のしようがありません。

映画を観ていて、この文化を継承しなければならないという、周防監督及び製作者の映画愛を感じました。またそれに呼応する形で集った役者陣の豪華さたるや…

主要キャストもそうですが端役に至るまで主役級の役者が出ており、こんな贅沢な役者使いを見たのは「シン・ゴジラ」以来です。

そんな中でも特に素晴らしかったのは音尾琢真さんですね。
この人が出ている作品にもはや外れはないでしょう。
『孤狼の血』では心底ビビらされ、この間の『ひとよ』では死ぬほど笑わされました。

そして目当ての成田凌君の演技はというと、やっぱり手足が長いだけあって、滑稽な動きがおかしくまた可愛らしく見え、リアクションを取る困ったような表情にも笑わされました。

二枚目だけでなく、三枚目もいける役者なんですね。今後も注目していきます。

笑いといえば、基本的にドタバタコメディの要素が強い作品ですが、三谷幸喜のような表情や過剰な演技で笑いを取ろうというさもしい表現とは違い、シチュエーションのおかしさなどで笑わされました。特にタンスを使ったあるシーンなんかは劇場中が笑いに包まれいい雰囲気でしたね。

そんなこんなで終始笑いながら見た作品ですが、やはり最後には落涙してしまう所がありました。やはり僕は“かつてあった偉大なものを愛でる”という精神にグッとくるようです。

本作を見て気に入った方には、他の周防作品も見ることをおすすめします。特に『しこふんじゃった』や『舞妓はレディ』が僕は好きですね。なんでもない普通の人が、ひょんなことから何百年も続く伝統芸能の世界に足を踏み入れ、やがてその虜になっていくってところが両作品に通じるテーマですね。自分の知らない世界を知ることで自分自身を理解していく主人公たちに深く共感します。

でもそれって我々が映画に求めていることかも…
セッキー

セッキー