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そらのレストランのinotomoのレビュー・感想・評価

そらのレストラン(2019年製作の映画)
3.8
北海道のせたな町で、亘理は海の見える牧場を営んでいた。周囲には無農薬の野菜を作っていたり、漁船の船長をしている気のいい仲間がおり、最近そこに羊を飼うファームに勤め出した、東京から来た神戸も加わった。チーズ作りをしている大谷に弟子入りしている亘理は、日々チーズ作りに精を出すが、なかなか大谷から認めてはもらえない。ある日、亘理とその仲間達も出店している、地元のマルシェに、札幌で活躍する有名シェフの朝田がやってくる。せたな町の食材に惚れ込んだ朝田は、亘理たちと親しくなる。朝田の作る料理を食べた亘理は、地元の食材を使った料理を提供する、1日限定のレストランを提案する。賛同した仲間と共に準備を進めるが、ある日、亘理のチーズの師匠である大谷が倒れてしまう。大泉洋主演の、北海道映画シリーズ第三段。
シリーズの前二作の「しあわせのパン」「ぶどうのなみだ」はもちろん見ていて、北海道の美しい景色と、その自然と大地がもたらす美味しい食材、お料理らがふんだんに盛り込まれた、心温まる物語は大好きだった。ただ、あまりにも絵本のように綺麗すぎて、リアリティに欠ける印象があり、今回もそのような仕上がりなのかなと思っていたが、予想外に、地に足のついた印象の物語になっていた。監督が変わったのも大きな理由かもしれない。ふらりと牧場にやってきた女性とすぐに結婚を決めてしまうとか、UFOのエピソードとか、さすがにそれはないかなと思ったエピソードが、実際にあったエピソードだというから驚き。せたな町にある、自然派農業ユニット「やまの会」をモデルにしているということもあり、リアルな生活感が出たのかなと思う。いかにもな、泣かせのセリフとか、クライマックスでのスピーチとか、ちょっと鼻につく部分もあるけど、それでも、人との繋がりの大切さを感じさせる、心温まる作品に仕上がっていて、不覚にも泣かされてしまう。前二作同様、美味しそうなお料理や食べ物がたくさん出てきていて、特にチーズ作りの工程が美しく描かれている。亘理とその妻のこと絵、そして幼い娘は、いつも食事の時に窓に向かって「いただきます」と叫ぶ。食は、まさに自然とその命をいただくことなんだというメッセージが伝わる。大泉洋は、前二作では、パンとワインを作る真剣な表情を見せてくれていたが、今回はチーズを作る姿を見せてくれている。何をやっても大泉洋という、まるでトム・ハンクスのような俳優になってきた感がある。脇の役者の中で感心したのはマキタスポーツ。この人歌もうまいけど、こんなに演技がうまかったとは。無農薬の野菜を作る、亘理の仲間の一人を、自然で無理のない演技で演じていて、とてもはまっていた。
北海道映画シリーズをプロデュースしているのは、チームナックスが所属する事務所、オフィスキューの代表取締役の伊藤亜由美さん。「水曜どうでしょう」の鈴井さんの元妻だ。ゆうばり映画祭でお姿を拝見したことがあるが、この方相当のやり手らしい。北海道映画シリーズの企画をするようになったきっかけが、帯広で作られている雑誌「スロウ」だったんだとか。映画のパンフレットにそのあたりのエピソードが書かれていたけど、スロウ村のイベントにも毎年参加している地元民としては、何とも嬉しい限り。次回作あたりで、十勝を舞台に作品を作ってくれないかな。そうなるとテーマはスイーツか、お蕎麦か。
映画を見たあと、さっそくチーズを買って帰りました。前二作の時も、パン買ったりワイン買ったりしたなぁ。ついそうしたくなる、魅力ある作品です。
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