カラン

来るのカランのレビュー・感想・評価

来る(2018年製作の映画)
4.5
中島哲也は『嫌われ松子の一生』(2006)、『告白』(2010)、『渇き』(2013)と観てきた。音楽が好きな監督さんで、ミュージッククリップ的な挿入をふんだんに取り入れた『嫌われ松子の一生』に本作は回帰しているが、より映画に溶け込ませて、悪ふざけ的な要素は減って、映画として完成度は高くなっている。帰郷の際の酒盛りのダイナミズムと卓の周辺が暗く沈んだライティングの効果なのかビジュアルエフェクトなのかも、木下啓介の『楢山節考』ほどではないが見事であり、色々と進化していると感じた。前作までに共通するのはしようもない個人的な苦汁を感傷的な光の中で撮りたがることか。

また、若い子を貶めながら、キラキラに仕立てるのがとても上手である。橋本愛は『告白』以上にきらめいたことはあるのだろうか?小松菜奈は前作に続いての出演であるが、今回は霊感の強い「ただのキャバ嬢」でパンクスタイル。死ぬほど光を当てたふわふわシルキーの股間と太ももだけを大きく映して、クローネンバーグのキャラクターのように、桃色の長いケロイド状の瘢痕を身体中にまとって登場する彼女は、倒錯した欲望のピカピカのシンボルになれる。

作り込んだ画は、容易にCGを受容できそうだが、最後の大団円はちょっと足りなかったか。ゴーストの表象よりも、その予兆や音声的表現で引っ張ったわけで、それはラストに至るまでは成功していたと思うが、ゴーストが乏しいせいか抽象的で、周囲の人物のアクションも弱々しく、いささか物足りないラストになったか。大騒ぎぶりは凄いのだけれども。


レンタルのBlu-rayソフトで視聴。映像は中島哲也らしい明るい仕上がり。軽薄な良い人感をアピールしまくる妻夫木聡と仲間たちがわちゃわちゃするのに、再生を止めたくなるほどに、怖い、のは、徹底した音のコントロールによるのである。

Blu-rayはそこそこ珍しいことだが、2chと5.1chと7.1chが選択できた。こだわりというか、製作者の意図があるのだと思う。私のシステムは5.1chベースであるが、7.1chを選んだ。7.1chシステムはサラウンドスピーカーを4本使う。つまり横と背後方向に信号がたくさんアサインされるわけだ。世間のサラウンドスピーカーが脆弱なものであることをエンジニアは知っているので5.1chのソフトの場合、サラウンドスピーカーに音を過大に割り当てることをしないケースは多い。私のシステムのサラウンドスピーカーはごく普通のシステムのフロントよりも大きいので、私からするとエンジニアのこうした配慮は余計なのである。今回、7.1chを選択したのは、逆に、サラウンドにたくさん音を配置して空間のホールド感を上げながら、前に回ってくる音を分散して、前から出なければならない音、特にセリフの純度を上げようということを考え、実際に、今回のダウンミックスはうまくいった。

この映画の素晴らしいセリフの収録、おそらくミックス時にコンプレッサーを使わなかったのだと思うが、自分の腹が軽くびりびりするくらいに力強い低音に支えられており、凄んだ声をださなくても恐ろしい、素っ頓狂なセリフでも白々しく感じない。

リアに回った音は『呪怨』のリマスター版Blu-rayのように、はっきりとゴーストを描く。しかも大量のゴーストで、自分の背後に巨大な呪いの壁が出来上がり、思わず前がかりになるほどだ。かつ、部屋全体に行き渡るアンビエント成分が、部屋のどこにでもゴーストが出現できるように結界をはっているかのようであった。

映像はそういう加工なのか、Blu-rayソフトのフォーカスの甘さなのか判別に苦しむところもあったが、おおむね良好だ。
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