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来るのokomeのレビュー・感想・評価

来る(2018年製作の映画)
3.5

「痛みだけが、自分を繋ぎ止めてくれるのです」


ジャンルとしてはホラーなんだけど、自分の受けた印象はむしろヒーロー映画。
しかも、前半は悪い大人を「ぼぎわん」という怪異が徹底的に懲らしめるアンチヒーローもの、後半はその怪異を止めるために霊能力者たちが戦いを挑む正統派ヒーローものと、一粒で二度美味しいとってもお得なエンタメ作品でした。


映画が始まってしばらくは、上っ面を取り繕った人間たちの軽薄な人間性が嫌らしく描かれていく。
周囲に良い顔ばかりして目の前の問題を直視しようとしない夫、それに早々に愛想を尽かしてノイローゼになっていく妻、幸福を演出するためのアクセサリーのように使われるだけの娘、そしてそんな彼らを端から冷めた目で見下す友人たち。
端的に言えば「現代社会が抱える病巣」の縮図なんですが、そこはポップな作風が持ち味の中島監督。人物描写が真に迫りすぎて観客の心を抉ってくるような事はなく、単純に「嫌な奴ら」のテンプレートとして割り切れる。

時として「こう言うキャラ」という強調の仕方、登場人物のアイコン化がミスマッチに感じる事もある中島監督作品ですが、今回はとてもしっくりしているように感じました。
人間関係の不和が呼び寄せる怪異の名前が作中極力出て来ず、ただ単純に「あれ」と呼ばれ抽象化されている演出も相まって、一種寓話的な雰囲気もある。
まさに「悪いことをすると『ぼぎわん』に連れてかれるぞ!」という感じ。

その悪いことと言うのは、思いやりの欠如だ。
人と人が関わりを持つ時、性格や習慣の違いから小さな齟齬はどうしても生まれてしまう。それに向き合わず、相手を慮る事をしなければ不和を生み、それはやがてどんどん大きくなっていつか取り返しのつかない事になる。だから、不和の象徴である「ぼぎわん」は、その相手の一番苦手な人物の姿を持って現れるのです。
それを目の当たりにして、悔い改められればまだ救いの道はある。実際、登場人物の一人は自分の過去、誰かを傷つけたと言う、忘れ去りたいけれどずっと心に残っていた「痛み」に立ち向かう決心をした事で生還を果たします。

しかし、そうでない者に対しては容赦が無い。「ぼぎわん」はあの手この手で恐怖を煽りながら相手を追い詰めていき、最後には惨殺してしまう。
そこには悲惨さは全く無くて、先に述べたようにテンプレート化された悪い人間が懲らしめられる「ざまあみろ」という爽快感と高揚感が圧倒的でした。
某闇金マンガを彷彿とさせる、まさに陰惨エンタテイメント。イクメンくん。


そして後半。
大きくなり過ぎた怪異を見かねた霊能力者が、直接対決に乗り出すパート。ガラリと毛色が変わって……正直、これが大問題でした。

松島奈々子がノリノリで演じる日本最強の霊能力者、比嘉琴子というキャラクターがまず可笑しい。
『カルト』のNEOを彷彿とさせるような、アクの強すぎるビジュアルと個性の持ち主。大物感たっぷりにひたすら抑揚なく淡々と喋る割に、やたらと食い意地が張ってる所が妙にツボでした。
そんな彼女が、あらゆるツテを使って全国から腕利きの同業者を集め、警察上層部まで抱き込んで大規模なお祓いの支度をする。

時は12月24日。怪異の中心地であるマンションの前庭に大規模なステージを特設し、女子高生のボランティアを大量に雇い、音響スタッフまで常駐させてスピーカーやらアンプやら持ち込んで会場設営を行う。……完全に野外フェスのノリじゃねーか。この辺りから何だかゾワゾワした予感のようなものがありました。
そして決戦本番、上演される神道仏教琉球神道ごたまぜなクリスマスイブの宗教ライブ!!
ロックフェスならぬ「お祓いフェス」!!
お経と祝詞となんだかよく判らない呪文の大合唱、木魚と篠笛が鳴り響きカミンチュが踊り狂う!!
なんだこれ!!
こんな狂ったビジュアル観た事ない!!


もうだめ。これに全て持っていかれました。
なんかダラダラ書いてきましたけど、とりあえずもう、このシーンをもっともっと掘り下げて長時間観ていたかったと言うのが一番率直な感想です。
原作の小説は何巻も続いているようですし、続編が作られる予定はあるのでしょうか。またこの阿鼻叫喚のお祓い合戦を見せてもらえる機会はあるのでしょうか。
是非お願いします。
こちらは覚悟出来てます。「来なさい!!」
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