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来るのsanbonのレビュー・感想・評価

来る(2018年製作の映画)
3.4
「最凶の悪霊」VS「最強の霊媒師」

という一見シンプルな題材の作品であるが、中身は予想の斜め上を行く難解さを秘めた「珍作」であった。

この作品を語るにあたって、重要な要素としては、まず「子供」の存在が挙げられるだろう。

田原家を襲う「怪異」は必ず子供の姿で現れるし、依頼主である「秀樹」の生まれ故郷には「子捨て」や「口減らし」の伝承などが残っている。

また、登場人物も「児童虐待」や「ネグレクト」、「中絶」や「不妊」などの過去を抱え、様々なアプローチで子供とそれにまつわる「闇」が要素としてふんだんに盛り込まれている。

その事からも分かるように「ぼぎわん」とは、恐らく不遇の死を遂げた子供の「霊的ななにか」であり、子供を苦しめる者の前に現れては、死をもってその者を粛清する存在ともみてとれる。

しかし、そうなると幼い頃の秀樹が「お前は嘘つきだからいずれ連れて行かれる」と言われた理由や、それを言い残し失踪した幼馴染の少女との接点が見出せず、なんとなくそう結論付けはしたが結局のところは正直よく分からなかった。

そして、「子供」の次に重要な要素にあたるのが「痛み」だろう。

「痛みを感じる事は生きている証拠」の言葉のように、この作品は痛みに関しても重要な意味を持たせ、様々なアプローチを試みている。

痛みについて「野崎」と「真琴」の二人を例に挙げてみよう。

元妻に子供を堕ろさせた経験に深いトラウマを持つオカルトライターの「野崎」と、過去に負った重傷により子宮摘出で子供が産めない身体となった「真琴」は恋愛関係にある。

この二人には「守るべき命」を背負う責任から逃げ出した「痛み」と、子供が好きなのに産む事が出来ない「痛み」をそれぞれに抱え、さらにはその責任と向き合う心配のない存在として「利用する」立場と「される」立場としての「痛み」も伴っていたりする。

このように、今作での痛みの表現は生々しい外傷としてはもちろんの事、それ以上に精神的な痛みにも深く言及をしており、さらに「子供」と「痛み」は必ず対になるように相関関係が構築されているのは実に興味深かった。

そのうえで改めて考えてみると、イクメンの自分に酔いしれるだけで、育児には非協力的な「上辺」だけで生きる秀樹や、そんな夫に重度のストレスを抱え、娘の知紗に対して虐待行為寸前まで精神的に追い詰められる「家族に恵まれない人生」を送ってきた「香奈」も含め、十分すぎるほどその「痛々しさ」が伝わる人物や展開が目白押しだった事に気付く。

そして、このやけに重苦しい「鬱展開」は、前半部分にかけてしつこいくらい丁寧に描かれていくのだが、日本最強の霊媒師「琴子」の登場する後半から雰囲気が一変し始める。

呪いのトリガーが謎で、もはや無差別殺人にも思えてくる凶事を働き出す最凶の悪霊「ぼぎわん」を除霊すべく、琴子の呼びかけにより全国から「特級霊媒師」が田原家の住むマンションに一堂に会し、全勢力を傾けた一大祈祷合戦が突如幕を開けるのだ。

やはり、日本の祈祷や霊媒の類が(一部韓国の霊媒師もいたけど)美しく、かつカッコよく映るのは、そのシステマチックな一連の所作や連携によるものなのだろう。

警察まで動員し、一区画を立ち入り禁止にまでさせて仰々しく執り行われる祈祷シーンは、これから凄い事が起こる感が半端なく、誰がどう見てもカッコいい場面であった。

ただ、現場までの道中突然の強襲を察知して、団体行動は危険と判断し、バラけて行動する事を臨機応変に判断するおっちゃん霊媒師達のような、霊能力者達に対する「手練れ感」を演出するシーンや、琴子が「最強」たる所以などが解る場面はもっと欲しいところ。

さらに、女子高生霊媒師集団の存在に関しては、何故か準備中ずっとはしゃいでいる姿ばかりフォーカスされており、中島監督は「若者=軽率で不謹慎」を映像として入れ込まないとどうしても気が済まないらしく、あの演出は悪い意味で中島監督っぽいなぁと思う一幕もあり、そこらへんのバランスはもう少し調整可能かなと思った。

結局、あれだけ大々的に儀式をしておいて、精神世界を通じてぼぎわんと戦ってたのは野崎という展開だし。

ラストも、勝敗がどちらに傾いたのか明言される事もなく、「オムライスの国」も表面だけなぞればハッピーエンドっぽいが、あの夢が知紗の「現実からの逃避」を表現したものであるとするなら、ぼぎわんが滅せられたかが不確定なところも踏まえると、まだ何も解決してないなとも感じられてしまう。

最後まで、観ている側の感じたままに結論を委ねてくる作りとなっており、謎のままで終わってしまった「秀樹の幼少期」にまつわる記憶のシーンなど、未回収の伏線の存在も相まってか、なんか釈然としない難しい印象で終わってしまったというのが本音。

オープニングの、おどろおどろしいサイケデリック感満載の映像とオルタナティブな音楽には、ドキドキ感とハラハラワクワクが味わえてめちゃくちゃ良かっただけに、そこからが続かず残念であった。
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